経済最前線


経済最前線 2017年5月1日~

リップル事件は起きるべくして起きた
2017年10月20日

 リップルトレードジャパンの代表者が逮捕された。
 リップルは仮想通貨と言われるが、ビットコインなどとは仕組みが大分違う。
 この事件は、起きるべくして起きたと言える。仮想通貨に対する理解の浅さと、規制のちぐはぐさが引き起こしたものだ。

<リップルのゲートウェイ、IOUとは何か?>
 リップルトレードジャパンは、リップルのシステムの中で「ゲートウェイ」と呼ばれる存在だ。これはビットコインの場合の取引所に似たものだが、機能は違う。
 ゲートウェイは、円などの現実通貨を受け入れて、IOUという借用書を発行する(リップルは、IOUを用いて送金を行なうのである)。
 ビットコインなどの場合の取引所の役割は、本来は、現実通貨をビットコインなどに両替することだけだ(現実には、取引所の口座にビットコインを置いたままにしている人が多いが)。
 しかしリップルのゲートウェイは、IOUという負債を発行している。
 ビットコインは、取引所なしでも取引は進行する。しかし、リップルはゲートウェなしでは、大部分の送金は行われない。

 ビットコインでは、ブロックチェーンという仕組みが、改ざん等を防止している。このため、P2Pに悪者が入ってきても壊れない堅固な仕組みになっている。性悪説を受け入れてても、なお成り立つ仕組みだ。
 しかし、リップのIOUの価値を裏付けるものは、何もない。ゲートウェイ業者を信頼するしかない。これほど危ないものはない。これは、性善説に立った仕組みだ。
 私は、『仮想通貨革命』(ダイヤモンド社、2014年)の中で、「リップルの成功は、信頼できるゲイトウェイが多数存在することに掛かっている」と述べた。

<投資家は、なぜIOUを持って満足していたのか?>
 本稿の冒頭で、「リップル事件は起きるべくして起きた」と述べたのは、以上のような認識による。
 私はまず第一に、被害にあった人がなぜゲートウェイに金を預けて、IOUを保有していたのかが不思議である。

 これが危険な取引だとというのが上で述べたことだが、それ以前に、何を期待してそういう取り引きをしたのかが不思議だ。
 リップルの内部で使用されるXRPという仮想通貨を、値上がり期待で買ったというなら、分からなくはない(値上がり期待で買うことは褒められたこととではないが、ここ1年間で100倍程度も値上がりしたのであれば、気を動かされても仕方ないかもしれない)。
 しかし、IOUを持っていても、値上がりすることはない。送金に使うのでなければ、何の利用価値もない。
 なぜ数百万円もの大金を預けて、そんな無駄な取引をしたのか、私には不思議でならない。

<なぜ性善説が必要なシステムを規制しないのか?>
 もう一つの問題は、規制のちぐはぐさだ。
 「世の中には悪い人もいるから規制する」という規制の論理は、分からなくはない。
 その論理は、性善説を前提に成り立っている仕組みにこそ、適用すべきものである。仮想通貨であれば、リップルのゲートウェイをこそ規制すべきだ。
 ところが、新聞報道によると、リップブルのゲートウェイは、規制の対象になっていない。その理由は、「現実通貨を仮想通貨に替えるという業務をやっていないからだ」という。しかし、IOUは見方によっては仮想通貨である(実際にインターネットで送金をするために使われている)。

 性悪説を取ってもなおかつ機能するビットコインを規制しようとし、その半面で、性善説によらなくては成立しないリップル(ゲートウェイ)を規制しない。これは、誠に不思議な論理だ。

 

機能不全に陥っている日本の政治システムを救うには ―予測市場とブロックチェーンを用いる提案 2017.10.13  今回の総選挙ほど、経済政策をめぐる論争が不毛な選挙はない。どうしたら、改善できるか? <分析と評価を切り離す>  「政策がどのような結果をもたらすかという、分析ないしは予測」の問題と、「分析・予測された結果をどう評価するか」は、別の問題である。  前者は価値判断には影響されずに客観的にできる。立場による差は、あまり大きくない。それに対して、後者は、価値判断そのものだ。結論は立場により大きく異なる。  本来選挙で問うべきは、後者だ。そして、前者は、専門家が評価するのがよい。  ところが、現実には、この2つが区別されずに選挙で問われている。  問題は、「分析・予測」についての情報が不完全なことである。とくに経済政策については、予測・分析は、専門家によりなされる必要がある。  しかし、そうした情報が十分に供給されていないため、選挙における評価にバイアスが生じてしまう。あるいは、評価が、間違ったものとなってしまう。  そして、政治がポピュリズムに陥ってしまうのだ。  例えば、消費税の増税の問題。短期的なことだけを考えれば、税負担が増えない方が望ましいとは誰でも思う。  しかし、長期的な効果を考える必要がある。増税しなければ、将来、社会保障支出が削られるかもしれない。あるいは、負担がもっと増えるかもしれない。  このようなことを正確に予測するのは、普通の人には難しい。このため評価が短期的なものに偏ってしまうのだ。  あるいは、アベノミクスの評価。企業利益の増加や株価の上昇は報道されるが、人々の生活にどういう影響を与えているかは地味な情報なので、あまり大きくは報道されない。単純な数の計算をすれば、アベノミクスによって被害を受けている人の数の方が多いのだから、否決されるはずだが、現実にはそうならない。これについては、『ダイヤモンドオンライン』  に書いた。 <予測市場の仕組みを使う>  「予測・分析と評価を分離する」試みは、すでに行われている。オランダには、経済政策分析局(CPB: Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis))という政治的に独 立性の高い政府機関が あり、政党の政権公約の評価を行なっている。  各政党は、選挙前に、CPBに対して政策提言を提出し、CPBはそのコストや経済に与えるインパクトを分析するとともに、しばしば、政党の政策提言の矛盾点を指摘する。=> =>  しかし、日本では政府に中立性を期待できない。『経済財政白書』が、政府の政策擁護一辺倒になってしまっているのを見れば、それは明らかだ。  前記の予測・分析の部分を、予測市場を用いて行なうという提案は、なされている。それは、futarchy(フタルキイ)という仕組みだ(拙著、『ブロックチェーン革命』、日本経済新聞出版社、2017年。終章の3参照)。政治学者の間で議論になっている。  もっとも、予測市場の仕組みで機能するかどうかについて、疑問がある。例えば、評価基準を「10年後のGDP」とした場合には、結果が出るのが10年先になってしまうからだ。  ただ、「専門家の判断を集計する仕組みを作る」という意味で、興味深い。  そこで、例えば、つぎのような仕組みが考えられる。  報道機関や非営利法人が、仕組みを作る。多数の専門家の参加を求める。評価の基準としては、GDP、賃金、消費支出、企業利益、株価、格差などを取る。  そして、各党の政策をこれらの指標で評価する。例えば、「消費税率を10%に引き上げる」「原発をゼロにする」「公的年金支給開始を70歳にする」等々。  単純集計でもよいのだが、参加者にインセンティブを与えるため、予測市場的な仕組みを導入することが考えられる。そして、全体の平均に最も近い結果を出した人に報酬を与える。  今回の総選挙では間に合わないが、こうした仕組みをどこかが立ち上げてくれることを期待したい。

超整理法は数学的に最適な方法 2017.10.9  最近翻訳書が刊行されるブライアン・クリスチャン 、 トム・グリフィス(田沢 恭子訳) 『アルゴリズム思考術: 問題解決の最強ツール』(早川書房、2017年)の中で、超整理法が数学的に正しい方法であることが述べられている。  「超整理法」(押し出しファイリング)とは、「資料を封筒に入れ、新しく作った封筒は左端に入れる。使った封筒は、もとの位置に戻すのではなく、左端に入れる」という方法だが、これは、「コンピュータサイエンスにおける『LRU』( Least Recently Used:最長時間未使用の原理)を発展させたものだ」と前掲書の著者たちは評価する。  また、超整理法は、「使ったファイルは、元の場所に戻すのでなく、1番左に戻すべきだ」とした。これは、Move-to-Front (MTF)法 と呼ばれる。 ダニエル・スリ―ターとロバート・タージャンは、これが「コンピュータサイエンスにおける自己組織化リスト」(Self-organizing list)として最適のものであることを証明した。  超整理法が従来の方法より優れていると私は考えていたが、単に効率的であるだけでなく、最適であると評価されたことは、大変嬉しい。  なお、『アルゴリズム思考術』には、これ以外にも大変興味深い内容が沢山ある。  身の周りの諸事をアルゴリズム思考で見直せば、我々の生活は改善されるだろう。 総選挙で選択権を行使できないことに不満を持つ人は多い 2017.10.3  社会保障財源を考える際に重要なのは、「消費税率を3%に引き上げだけでは決して十分でない」ということだ。消費税だけで対処しようとすれば、税率を30%程度に引き上げる必要があるだろう。  しかし、現実には、10%への引き上げもままならぬ状態だ。  安倍晋三首相は、リーマンショックのような重大な事態が起きた場合には、引き上げないこともありうるとの含みを残している。希望の党は、消費税凍結を表明している。共産党も、消費税増税には反対だ。  「痛みを伴う給付削減や負担の増加は、正面から政治的な課題としない」というのは、いまに始まったことではないが、今回ほどそのことが明確に現れている選挙はない。 <人々は選択肢を示してほしいと望んでいる>  ところが、これに関して、人々の意識は変化している。  「痛みを伴わない施策は維持できない」という認識は、一般的なものになっている。  新しい政策だけではない。現在の社会保障制度自体の継続可能性について、大きな不安を持つ人が多い。  現役世代は、年金支給開始年齢が70歳に引き上げられることはありうると考えている。他方で、現在の職場で70歳まで就労を続けるのは難しい、とも考えている。  高齢者は、十分な医療や介護のサービスを将来受けられるかどうかについて、不安を抱いている。  だから、現在の仕組みを維持するだけのためにも、負担の構造をはっきりさせてもらいたいと考える人が多くなっている。「今の仕組みには無駄が多いから、それを見直せば財源は出てくる」、あるいは、「財政再建を延期したところで問題は起こらない」というようなごまかしは、通用しなくなってきている。もはや、無責任体制は許されない時代になってきているのだ。  それにもかかわらず、日本の政治は、その要求に応えていない。  今回の総選挙で、社会保障財源に関する選択権を行使できないことに不満を持つ人は多い。  

国民は社会保障財源問題に関する選択権を、総選挙で行使できない 2017.10.2  増大する社会保障費の財源をどうするかは、国民の誰もが強い関心を持つ極めて重要な政策課題だ。今回の総選挙において、それに関する選択肢が政治の側から提出されているだろうか?  形式的にいうと、安倍晋三首相の提案では、子育て支援や教育無償化の施策を導入し、その財源は消費税の増税による増収分ということになっている。  しかし、消費税の増税そのものは既に決められていることだから、今回新たに提案されたのは、「財政再建を延期して新しい政策に充てる」ということだ。  民進党の前原誠司氏は、民進党の代表選にあたり、消費税を増税して社会保障に充てるとする「All for All」を発表した。これも社会保障を全世代型に拡張することであり、その財源は消費税だ。ただし、消費税凍結を表明する希望の党への合流で、それは雲散霧消した。  共産党も、社会保障には反対ではないがその財源は抽象的だ。  結局、どの政党が勝っても、財政赤字の拡大によって社会保障費の増大を賄うことになる。  ところが、財政赤字への依存は、持続可能性がない。この場合に実際に起こるのは、高齢者の自己負担の増加や給付切り下げだ。  医療保険については自己負担の増加が考えられているし、年金については、支給開始年齢の引上げが報じられている。  こうして、現実には、「取れるところから取る」、「削れるところから削る」ということになってしまう。政策全体の整合性が取れず、公平性が阻害される。選挙で基本方針が決定されないから、実際の政策がこのように捻じ曲げられてしまうのである。  総選挙は国民が政策に関して意思を表明できる大変貴重な機会であるにもかかわらず、適切な選択肢が政治の側から示されていない。国民は社会保障とその財源問題に関して、選択権を行使できない状態になっているのだ。 本当に重要な争点が選挙で争点となっていない 2017.9.29  今回の選挙では、経済政策上の対立が争点になっていない。  日本の選挙では、とにかく議席を取ることが最優先の課題だ。議席獲得は政策を行なうためでなく、それ自体が目的だ。だから、政策は重要でない。     政策は飾りとして必要なだけだから、なんとか無理して取ってつける。  これまでもそうだったが、今回の選挙ほどそのことが明確に現れている選挙はない。  しかし、議席獲得のために本当に必要なのは、政策である。民進党が低迷しているのは、これまではっきりした政策を打ち出せなかったからだ。  前原誠司氏は、ついこの間、消費税を増税して社会保障に充てるとする「All for All」を発表した。しかし、それはどこかに胡散霧消してしまったようだ。  民進党には「働く人たちの生活を守る」という重要な役割があるはずだが、そのことが意識されていない。  アベノミクスの評価にしても、抽象的な経済指標を引用する必要はない。働く人の生活が豊かになったかどうかを見れば一目瞭然だ。賃金が上がっていないし、消費も増えていない。    アベノミクスの中心は金融緩和政策にある。だから本当の争点は、これを是とするか否定するかだ。  原油価格が大幅に下がったとき、デフレ心理からの脱却の障害になるとして、日本銀行は追加緩和を行なった。つまり、金融緩和は、明らかに働く人の立場に立っていないのである。だから、働く人の立場に立つなら、これを阻止すべきである。これほど明確な争点はない。  現在の日本において本当に重要な争点が、選挙で争点として意識されていない。 衆議院選の本当の争点は、金融緩和からの出口問題 2017.9.28    消費税が衆議院選の大きな争点になっている。  まず、消費税を増税するかどうかが問われている。  これは、「財政再建を延期して、現在の支出を続けてもよいか」という選択である。  自民党の公約は、「消費税の用途の変更」ということになっているが、これは分かりにくい。  他の支出項目を削って教育に回そうというのではなく、国債減額を少なくして新しい支出に充てようということだ。つまり、問題は、「財政再建を延期して、その代わりに子育てや高等教育などの用途に使うのが適当かどうか」ということである。  財政再建を延期するという点ではどちらでも同じだ。繰り返せば、提起されているのは、「現在の支出を維持したまま、あるいは新しい施策を導入して、財政再建を延期して良いのか」ということである。 <金融緩和との関係>  この提案は、金融緩和政策からの出口の問題と切り離して考えることができない。  lなぜなら、財政再建を延期できるのは、そもそも金利が低く抑えられているからである。  巨額の財政赤字にもかかわらず金利が上がらないのは、日銀が大量の国債を購入して、それを返却不要の形にしているからだ。  毎年度の財政赤字は縮小しているが、国債の残高は増加している。だから、通常の状態であれば、国債残高の増加によって金利が高騰し、一般会計の利払い費が巨額になる。そうなれば、財政赤字の削減は 、一刻を争って対処すべき緊急の課題となる。  だから、本当の問題は、「金融緩和政策をこれ以上続けてよいのかどうか」ということである。つまり、消費税の増税や使途拡大の問題は、金融政策の出口問題とセットで考えられなければならない。  言い換えれば、「財政再建を延期しても、金融政策に出口がある」ということを確認してからでなければ、消費税増税を延期したり使途を拡大したりすることはできない。 <財政再建を延期すれば、出口がなくなる>  大量の国債の購入を続けた結果、日銀の資産に巨額の国債が積み上がり、負債には当座預金が積みあがっている。これらの存在が、緩和からの脱却を困難にしている。  現在すでに、国債は異常な低金利に抑えられている。株価は日銀がETFを通じて買い支えている。こうして、金融市場は、経済の実態を示さないものになっている。金融緩和政策を続ければ、金融市場はますます歪んでしまう。  今の状況を続ければ、この問題がますます深刻化する。そして出口はますます遠のき、経済全体が深刻な状況に陥る。  今回の衆議院選の本当の争点は、金融緩和政策からの出口の問題でなければならない。   人手不足に対処するには、技術の活用が必要 2017年7月31日 有効求人倍率の上昇が続いている。しかしその半分程度は、求職者数の減少によるものだ。長期的に見た場合には、労働力人口の減少によって日本は深刻な人手不足経済に陥る。 経済財政白書は、「人手不足は日本経済がデフレから脱却するチャンスだ」という。しかし現実には、人手不足にもかかわらず賃金は上昇していない。それは製造業という高生産性部門から、医療介護を始めとする低生産性サービス部門への労働力の移動が続いているからだ。 白書は、資本装備率を高めることによって生産性を向上させるべきだという。しかし、低生産性サービス業では、投資によって生産性を向上させる余地はあまりない。 この問題に対処するには移民を増やす必要があるが、それができないのであれば、グローバルなアウトソーシングを増やす必要がある。インターネット上のクラウドソーシング・サービスや手数料の安い国際的支払手段(仮想通貨等)など、それを行なうための技術的な条件は整いつつある。   ビットコインで超高速、かつ低取引料の送金が可能に 2017年7月29日 ビットコインへのSegwitの導入は、ほぼ確実になった。これにより、取引可能な容量は約2倍に増える。しかし、2倍に増やした程度では、容量はいずれ一杯になってしまうだろう。  ビットコインのスケーリング問題を解決する切り札は、「レイヤー2」方式だと考えられている。これは、ブロックチェーンをインフラ(レイヤー1)とみなし、その上にレイヤー2を作り、いちいちの取引はレイヤー2でオフブロックチェーン取引として行なうものだ。  この一つである「マイクロペイメント・チャネル」では、取引チャネル設定と最終的確定だけをブロックチェーンに報告する。その間の取引は送金者が預託したビットコインの残高を徐々に減らすことによって行う。これらはブロックチェーンに報告しないので、手数料なしで瞬時に行なうことができる。  こうした取引を、中継者を介して行えるようにしたのが、「ライトニングネットワーク」だ。    いずれも、取引相手を信用する必要がなく、また、信頼できる第3者の仲介を経ずに、安全で低手数料の送金ができる。  これにより、毎秒1回、100分の1円を何度も送るというような少額高頻度取引が可能になる。このため、現在のビットコインとは比較にならないほどユーザー数が増える可能性がある。  Segwitの導入は、こうした方式を実現するために、どうしても必要なことだったのだ。     ビットコインで、取引所と一緒に「負ける」のを避けるには 2017年7月11日  昨日、この欄で次のように述べた。  ビットコインは、近い将来、ハードフォークする可能性がある。すなわち、2つ(あるいはそれ以上)の異なるものに分離する可能性がある。この場合、ビットコインを取引所の口座に置いたままにするのではなく、自分自身のワレットに移すほうが安全だ。  なぜこのように考えられるのか?その理由を以下に説明しよう。 (1)秘密鍵を誰が持っているか?  普通、ビットコインは取引所で購入する。その残高は、取引所に開設したアカウント(口座)に記録される(「アカウント」が「ワレット」と呼ばれることもあるので紛らわしいが、これはワレットではない)。  その残高をワレットに移せば、自分の秘密鍵で管理することになる。  しかし、アカウントに入金されたビットコインの残高は、個人のワレットに移動しなくても、使うことができる。この状態で使っている人も多いのではないかと思われる。  ただし、この場合には、取引所は秘密鍵を個人に教えないので、購入したビットコインは、取引所が管理していることになる(どのように管理されているかは、公表されていないので、はっきりしない。共通の秘密鍵で管理されている可能性もある)。  取引所から渡されるのは、アカウントを開くためのパスワードだけだ。だから、保有しているのは、取引上の預金口座のようなものだ。ビットコインを購入した個人が、直接にそれを保有しているわけではない。 (2)ハードフォークが起きると、ビットコインの残高はどうなるか?  ハードフォークが起きた場合でも、保有しているビットコインが失われることはない。過去に獲得したビットコインの残高は、分岐したどちらの枝にも同じように記録されているからだ。  ただし、それらの両方を持つことはできず、どちらかを選択する必要がある。  自分のワレットを持ち、残高を自分の秘密鍵で管理している場合には、その選択は自分で行う。  しかし、残高を取引所の口座に置いている場合には、選択は取引所に委ねられる。 (3)取引所はどちらを選ぶか?  では、ハードフォークが起きた場合、取引所はどちらを選ぶか?取引所のグループはすでに共同声明を発表しており、従来との互換性があるものを支持すると言っている。ブロックサイズの拡張によってハードフォークが起きた場合、古いビットコインを選ぶことになる。  しかし、ブロックサイズを拡張して新しくなったビットコインのほうが、人気を集めるかもしれない。この場合、取引所が選択したビットコインの価格が下落する可能性がある。これは、保有者としては避けたい事態だ。そうすると、さらに人気が落ちる。  つまり、取引所グループは、負ける危険があるのだ。必ずそうなるとは言えないが、その危険はある。  こうした事態を避けるには、自分の秘密鍵でビットコインを管理する必要がある。  では、ハードフォークは、本当に起きるのか?起きるとすれば、いつ起きるのか?  現時点では、はっきりしない。8月かもしれないし、11月かもしれない。これについては、多分7月末までに見通しがつくだろう。 ビットコインが重大な局面に直面している 2017年7月10日     現在、ビットコインが、能力拡張のための仕様変更で重大な局面に直面している。変更方法についてのコンセンサスが7月末までに得られない場合、ビットコインが2つに分裂するかもしれず、そうなると、混乱が起こりかねない。      日本ではこのところ、ビットコインの価格上昇を見て投資をしようという人が増えているが、上の問題はほとんど報道されていない。問題の性質がきわめて技術的で分かりにくいためだが、投資をしようとするなら、絶対に知っておくべきことだ。     現在のビットコインの仕様では、取引能力に限度があり、ビットコインの取引が今後増えると、支障が生ずるおそれがある。     この問題に対処するための提案が、数年前からいくつかなされているのだが、ビットコインには様々なグループが関与しており、利害が一致しないので、コンセンサスを形成することが難しい。      ビットコインのコア開発者たちは、segwitと言う方式によってデータを圧縮する方法を提案しており、取引所のグループもこれを支持している。しかし、ビットコインのマイナーはこれに反対しており、ブロックのサイズを拡張することを望んでいる。     7月末までに関係者の間で同意が形成されない場合、ソフトフォークあるいはハードフォークという方策が導入される可能性がある。     フォークと言うのは極めてわかりにくい概念だ。これはビットコインの取引を記録するブロックが分岐してしまうことを意味する。ソフトフォークの場合には、いずれチェーンは1つに収束していくので問題はないが、ハードフォークの場合には、ビットコインは2つの異なるものに分別してしまうことになる。     この場合、ビットコインの取引が混乱する恐れがある。     ビットコインを保有している人は、その残額を取引所の口座に置いておくのでなく、自分が管理するウォレットに移すことが望ましい。   仮想通貨のブームには危険な側面もある 2017年7月3日  仮想通貨のブームが起きている。  多くの人が仮想通貨を保有するのは、ネットワーク効果の観点から望ましいことだ。  しかし、日本の場合には、仮想通貨の価格暴騰を背景とした値上がり期待での購入がほとんどと考えられる。  ビットコインは、送金の手段としては優れている。しかし、資産運用の手段としては様々な問題を持っている。  仮想通貨の価格変動は激しく、暴落の危険もあることに注意が必要だ。それに、ビットコインの場合には、「スケーリング」と言う深刻な問題がある。  また、ビットコインの技術はかなり荒削りなので、秘密鍵の喪失や盗難などによって資金を失う危険性は十分ある。巨額の資金を仮想通貨に投入するのは、極めて危険だ。   仮にビットコインの価格が暴落した場合、日本人の関心が一挙に冷えてしまうかもしれない。そして、2014年頃にそうであったように、ビットコインを危険なもの、胡散臭いものとして遠ざけてしまうかもしれない。  そうなれば、ネットワーク効果が逆向きに働き、ビットコインを送金に用いる動きがストップしてしまうかもしれない。こうした事態が起こることが危惧される。   金融緩和からの脱却が株価を下落させるとは限らない 2017年6月24日 金融緩和政策から脱却すると、 株価が下落する危険がある。 これに対する懸念のために、緩和から脱却できない可能性がある。 しかし、金融緩和からの脱却が必ず株価の下落を招くわけではない。これは、アメリカの経験を見れば明らかだ。 量的緩和第3弾(QE3)の終了が宣言された2014年10月以降、ダウ平均株価はむしろ上昇を続けた。そして、14年前半には16000ドル台であったものが、15年初めには18000ドル台まで上昇した。 15年12月の利上げで落ち込んだが、16年4月には18000ドルに回復した。最近では21000ドルを超えている。 こうなったのは、アメリカの実体経済が強いからである。そして、金融政策の正常化は、長期的な成長の観点からは望ましいと判断されているからである。 株価を決めるのは、現在の利益というよりは、将来にわたっての利益の成長の見通しなのである。 日本でも、長期にわたる安定的な株価の上昇を望むのであれば、金融緩和の継続を望むのではなく、実体経済の強化に努めるべきだ。 ただし、日本の場合には、特殊事情がある。すでに日銀が大量のETF購入を行なっており、これが株価を支えているからだ。 今朝(6月24日)の日本経済新聞が報じるところでは、ETFを通じる株式購入によって、日本銀行の推定保有残高は17兆円を突破し、日本株保有額で第3位に急浮上した、昨年は、個人株主による日本株の売り越しに対して、日銀が受け皿になったとみられる。 金融緩和政策から脱却すれば、その支えが失われて、株価が急落する可能性が強い。 しかし、これは、現状に問題があるのだ。中央銀行が株式市場の中でこのように大きなシェアを占めるのは、麻薬やカンフル注射によって痛みを抑えているのと同じようなことで、とても正常な状態とは考えられない。いずれは是正されなければならないことである。   緩和政策からの出口で56兆円の損失 2017年6月19日 金融緩和政策からの脱却に伴って、日本銀行に巨額の損失が発生すると予想される。 長期金利が1%上昇すると、日銀保有国債に23兆円の損失の発生する。上昇幅が2%なら46兆円だ。もっとも、これは評価損なので、国債を保有し続ければ現実の損失となることはない。 ただし、保有し続けても、損失は発生する。いま、インフレ率が日銀の目標通り2%になったとしよう。その場合には、短期金利も2%以上に引き上げなければならない。そうしなければ、土地投機等を誘発して、インフレが加速する。 短期金利を2%以上にするためには、日銀当座預金に2%以上の付利をする必要がある。そうしないと、当座預金が取り崩されて、投機資金への融資に回されるからだ。付利が2%であれば、その総額はやはり46兆円となる。 しかも、額面より高値で国債を購入をしているため、償還が到来すれば約10兆円の損失が発生する。したがって、合計で56兆円の損失だ。これは、長期金利が2.4%上昇したときに保有国債を全額売却した場合の損失と同額である。つまり、短期金利が2%上昇、長期金利が2.4%上昇であれば、国債を保有し続けても、全額直ちに売却しても、損失は同額になる。 以上のような損失に備えて、日銀はすでに引当金の積み立てを始めている。 まず、額面より高い価格での国債購入による損失を平準化するため、「利息調整額」を計上している。さらに、脱却時の付利等に備えるために、「債券取引損失引当金」を計上している。このような引き当てを行なっているため、日銀納付金が減少している。 しかし、2016年度末の純資産は3兆6658億円に過ぎず、上で述べた56兆円というような損失に対しては、とても足りない。したがって、以上で想定したようなインフレ率、金利が現実になった場合には、日銀は債務超過に陥る。 通貨発行益によってこの状態から脱出することは、長い時間をかければ、原理的には可能である。しかし、それは長期にわたって日銀の国庫納付金がゼロになることを意味し、国民負担となる。また日銀券に対する信頼が失われ、際限のない円安が進行する危険もある。 ただし、以上は、インフレ率が高まり、金利が上昇した場合のことである。これらが低い状態で緩和政策から脱却すれば、損失は抑えられる。現在行なっている引き当ての範囲内で対処できる可能性もある。したがって、必要なのは、できるだけ早期に緩和政策から脱却することだ。   成長するのはパートに依存せざるを得ない産業であるため、賃金が下落する 2017年6月11日  毎勤統計によって「一般労働者」(パート労働者を含む「労働者全体」ではない)の給与水準とパート労働者の比率を産業別に見ると、負の相関が見られる。つまり、「パート労働者以外の一般労働者の給与水準が低い産業ほど、パート労働者の比率が高い」という傾向が見られるのだ。  これは、「パート労働者の比率が高いために、その産業の給与が低くなる」のではなく、「産業の生産性が低いために、パートに頼らざるを得ない」ことを示している。  つまり、生産性や給与水準の高低は、産業の特性なのである。  ところで、過去10年程度の間に、低生産性産業が成長し、高生産性産業が縮小ないし停滞した。この結果、経済全体でパート労働者の比率が上昇し、また平均賃金が下落した。  これは産業構造の変化によって引き起こされた問題なのであり、「同一労働同一賃金」や春闘への政府介入では、解決ができない。   アベノミクスによって富裕者層の資産が著しく増加  2017年6月10日   2013年1-3月期から17年1-3月期の間に、企業利益が増加して株価が上昇した。  利益を増大させた要因は、第1は、円安による円表示の売上高の増加。第2は、企業による従業員給与の圧縮だ(従業員給与は1.8%減)。このため、企業の売上高は7.2%しか増えなかったが、営業利益は40.7%も増加した。  税引後利益が増加したので、企業は配当を増やすとともに、内部留保を増やした(利益剰余金は37.1%増加)。これは、株価を引き上げた(同期間にほぼ1.8倍に上昇)。  この結果、高額資産保有者の資産が著しく増加した。野村総合研究所によると、13年から15年にかけて、「富裕層および超富裕層」(純金融資産1億円以上)の純金融資産総額は、12.9%増えた。日銀の資金循環勘定によると、12年12月と16年12月の間に、家計が保有する株式等・投資信託受益証券は、172.2兆円から263.2兆円まで91.0兆円増加した。これは、同期間中の現金・預金の増加67.5兆円より大きい。  他方で、売上高の伸びが高くなく、また企業が給与を圧縮したので、賃金報酬は伸び悩んだ。円安等によって消費者物価が上昇したため、実質値では減少した( 実質賃金指数は、13年3月の91.8から17年3月の88.9まで低下)。この結果、分配状態が悪化した。  しかも、税制がこの過程を加速した。まず、未実現のキャピタルゲイン(年平均で見て、賃金俸給の1割を超える額になったと推計される)は課税されていない。 また、法人税が減税されたので、内部留保が増加し、これが株価を引き上げた。 賃金停滞は、「同一労働同一賃金」や、春闘での賃金引き上げでは解決できない 2017年6月9日  パートタイム労働者の比率は、産業によって大きく違う。飲食業や小売業など生産性が低い(したがって給与水準が低い)産業でパートタイム労働者の比率が高い。他方で、給与水準が高い製造業では、パートタイム労働者の比率が低い。  ところが、雇用増加は主として非正規労働者の増加によって実現しているので、給与水準の低い産業の成長率が高くなる。したがって、経済全体の賃金が上昇しない。  賃金停滞は、このようなメカニズムによる。これは、「生産性の高い産業が成長しない」という産業構造の問題なのである。したがって、この問題は、「同一労働同一賃金」や、春闘での賃金引き上げによっては解決できない。   「同一労働、同一賃金」によって、正規・非正規労働者の差を解消するのは難しい 2017年5月30日  政府の働き方改革は、「同一労働、同一賃金」をスローガンとして掲げている。これによって、正規労働者と非正規労働者の差を解消することが目的だ。  統計を見ると、総労働時間1時間あたりの給与には、きわめて大きな格差がある。一般労働者が1959.9円であるのに対して、パートタイム労働者は1105.0円でしかない(労働力調査、調 査 産 業 計、事業所規模5人以上、きまって支給する給与、2017年3月)。  これだけ大きな差は、正規・非正規という雇用形態の差のために生じているのでなく、仕事の内容に差があるために生じていると考えざるをえない。  だから、この差を「同一労働、同一賃金」というスローガンで埋めることは、到底不可能だし、強行すればさまざまな歪を生むだろう。例えば、非正規労働者の賃金を引き上げるのでなく、正規労働者の賃金が引き下げられる可能性もある。  もともと、「同一労働、同一賃金」は、ヨーロッパで男女間賃金格差を解消するために言われてきたものだ。性別と言う形式的な差によって、生産性が同じであるにもかかわらず賃金が異なるのであれば、確かに問題だ。しかし、それを正規労働者と非正規労働者に当てはめようとするのには、無理がある。  労働者の側からしても、1つの企業での非正規労働の賃金引き上げを求めるだけでなく、副業や兼業を積極的に行ない、所得全体を引き上げることで対処すべきではないだろうか? 働き方改革は所定外給与を減らした 2017年5月26日  安倍内閣は「働き方改革」政策の中で、長時間労働を厳しく規制する方向を打ち出している。  この結果、何が起こったか?「毎月勤労統計調査」によると、超過労働時間は減った。30人以上の事業所の一般労働者についてみると、それまで増えてきた所定外労働時間は、長時間労働が社会問題化した16年以降、減少している。  このため、所定外給与が減っている。所定内給与はこの間に増加しているにもかかわらず、超過勤務手当てが減ったのである。所定外給与の対前年同月比は、17年2月を除くと、16年6月以降一貫してマイナスだ。  強制される長時間労働時間が問題であることはいうまでもない。しかし、超過勤務をしても働きたいという人も、一方にはいる。 また、仕事のノルマがある以上、「オフィスで仕事ができなければ、自宅に持ち帰って仕事をする」ということにもなりかねない。もしそういうことになれば、仕事量は変わらずに賃金だけが減らされるということになる。これでは、体の良い賃金カットということになりかねない。  労働時間の適正化は、生産性の向上よって実現すべきものだ。表面的現象のみを捉えて強制的に労働時間を減らせば、その歪みは労働者に及ぶ。   生産性向上のために重要なのは、規制緩和 2917年5月25日  構造改革のキーワードが、「働き方改革」から「労働生産性の向上」にシフトしてきた。  生産性を向上せずに、表面的な働き方だけを変えても、結局、歪みがどこかに移るだけの結果に終わってしまう。生産性向上が意識されてきたのは、正しい方向へのシフトだ。    ただ、問題は、そのために何をするかである。  一般には、個別企業の内部における効率化が考えられている。それは必要なことだ。しかし、その効果には限度がある。  それに、効率化であれば、企業はこれまでも行なってきた。それを怠った企業は、淘汰されているはずである。もしそういうものが残っているとすれば、それは規制によって非効率な企業が温存されているだけのことだ。    日本のサービス業には、そうした分野が多い。例えば、旅館業、タクシー業。シアリング・エコノミによって本来は効率化できるものが、業界団体の圧力によって規制が残っているために、効率化できない。先般提出された政府の規制改革推進会議の答申でも、これらについては手がつけられていない。  生産性向上のための第一歩は、既得権益を見直す方向での規制緩和ないしは撤廃である。    政府は、生産性向上に取り組んだ企業に対して補助金を支出することを検討しているようだ。しかし、補助金目当てで無駄な投資がなされるようなことがあれば、 全く逆効果だと言わざるを得ない。    「働き方」に関する政策で欠けている視点:産業構造の変化と新しい技術の進展 2017年5月20日  日本でもアメリカでも、働き方が問題となっている。  日本では、政府が「働き方改革」を進めており、これは政府の構造改革政策の中でかなり大きな地位を占めている。  アメリカでは、トランプ大統領がアメリカの労働者に職を取り戻すと言っている。  どちらも、働き方に関するものだ。 <政策は、経済の基本メカニズムを無視している>  日本とアメリカで共通しているのは、どちらも、「現在の労働市場における基本的なトレンドが望ましいくない」と評価し、それを直そうとしている点だ。  日本では、正規労働者と非正規労働者の差が問題であるとされ、「同一労働同一賃金」の実現が目的とされている。また、長すぎる労働時間が問題視され、規制の強化が必要とされている。  トランプ大統領は、製造業の就業者が減少してサービス産業の就業者が増加していることを望ましくないものとし、とくに鉄鋼や自動車産業などの製造業の就業者が増加することを求めている。  どちらの場合も、マーケットメカニズムがたらしている現象を表面的に捉え、それを是正しようとしている。働き方がなぜ変化しているのかという基本的なメカニズムに関する分析・検討がない。  とくに重要なのは、産業構造の変化と新しい技術の進展を無視していることだ。  そのため、求めている効果が実現できない可能性が高い。場合によっては、現状をかえって悪くしてしまう。 <政府の働き方改革は、製造業中心の産業構造を想定している>  日米のもう一つの共通点は、1980年代ごろまでの製造業における働き方を理想的だと考えていることだ。  トランプ大統領が「アメリカに雇用を取り戻す」と言う場合に想定しているのは、鉄鋼業、自動生産業など80年代までアメリカの中心であった産業だ。  日本の場合に製造業の重要性が明示的に述べられているわけではないが、長時間労働の禁止や、同一労働同一賃金が重要との考えは、工場労働者を想定した場合に重要となる事柄である。  長時間労働は、もともとは産業革命期の工場労働者に関して問題とされたことだ。多くの労働者が工場に集まり、同一時間帯に作業する。ここで過酷な労働が行われたことから、それを統制しなければならないという社会的な運動が生まれたのだ。現在の日本の労働時間の規制も、基本的には人々がこのような形態で働いていることを前提としている。  サービス産業でも、飲食店などの接客業や、介護従事者の場合には、基本的に工場労働者と同じ働き方だ。 <高度サービス産業では、産業革命以前の働き方に戻る>  しかし、現代の先進国の中心産業は、もはや製造業ではない。サービス産業のなかでも、従来型の低生産性サービス業ではなく、知識産業的な性格が強い高度サービス業である。アメリカの場合には、実際にこれによって経済成長が生じている。そして、この分野での働き方は、製造業の場合とはかなり異なる。  高度サービス産業では、個々の労働者が独立して働いていることが多いため、仮に労働時間を規制しても、結局は、「成果を出すために自宅で仕事をする」といった事態になってしまう。また、このような労働については、そもそも正規雇用が望ましいかどうかも疑問だ。  高度サービス産業で重要なのは、個人の独創性を引き出せるような労働環境だ。  それは、創造性から生み出される革新が、きわめて大きな利益と成長をもたらすからである。  アップルは、iPhoneという1つの非常に革新的な製品によって、これだけの成長を遂げた。Googleの場合も、その成長の基盤にあるのは、非常に優れた検索エンジンだ。Facebookでは、新しい形態の社会的な交流の仕組みの創設だ。  ごく少数の人間の革新的なアイディアが、現代のリーディング産業を作っているのである。  このため、アメリカをリードするハイテク企業は、さまざまな工夫をして、個人の創造性を引き出そうとしている。  それは統制のとれた軍隊的な組織が一糸乱れずに行動するという組織とはだいぶ違うものだ。  高度サービス産業においては、組織に雇われて働くことは必ずしも必要ではない。このため、フリーランサーが増えている。  彼らは、独立自営業者だ。  その意味で、働き方が、産業革命の以前の個人事業の時代に戻ろうとしている。このような変化が、現代の先進国経済を成長させていくのだ。  しかし、日本でもアメリカでも、政府はこのことに気づいていない。それは多分政治的なメカニズムがもたらすバイアスなのだろう。   金融緩和政策からの出口が難しいのは、当座預金と保有国債の残高が巨額になってしまったから 2017年5月19日  日銀の金融緩和政策からの出口は、どのような条件下で行われるかによって、大きく異なるものとなる。  とくに重要なのは、その時のインフレ率と利子率、そして当座預金残高である。  仮に日銀の目標である2%のインフレ目標が達成された状態での脱却であれば、金利は現在のような低い水準ではありえない。短期金利も最低2%程度に引き上げる必要がある。そうでなければ、実質金利がマイナスになってしまい、土地などに対する投機を引き起こすことになる。  短期金利を2%にするためには、日銀当座預金に2%の付利をすることが必要になる。  その場合に問題になるのは、当座預金の残高がどうなっているかだ。  それは、インフレ率上昇がどのようなメカニズムで達成されたかによる。  仮に、マネーサプライが増えることによっ物価が上がったのであれば、当座預金残高は取り崩されて日銀券になっているだろう。その場合には、当座預金に付利しても、そのために必要な利払い費の総額は、さほど大きくない。  しかし、マネーサプライが増えずにインフレ率が高まることもあり得る。それは、円安や原油価格によって輸入物価が上昇する場合である(こうしたことは、2013年ごろに実際に生じた)。その場合には、当座預金が現状のように巨額の水準に留まっており、したがって、必要な利払い費は巨額なものとなる。  保有国債を売却すれば当座預金残高を減らすことができるが、その場合には国債の含み損が実現化して、やはり巨額の損失が発生する。  異次元金融緩和政策が採用されたとき、インフレ目標の達成は、「2年程度で、できるだけ早く」とされていた。だから、当座預金残高や保有国債残高がこれだけ積み上がるとは想定していなかったのであろう。  出口問題が難しくなっているのは、目標がいつになっても達成できず、巨額の当座預金と国債残高が積み上がってしまったからである。  ところで、以上で述べたのは、インフレ率2%が達成された場合のことだ。  インフレ率が低い状態のままでの脱却であれば、金利も低いままだから、当座預金残高への付利という問題は生じない。  その場合に問題になるのは、長期金利が上昇して日銀保有国債に含み損が発生することだ。ただし、金利上昇が小幅で済むならば、これもさして大きな問題とはならない。  以上の議論から分かるように、金融緩和政策からの脱出は、傷が浅いうちに行なう必要があるのだ。   日銀は、インフレ目標達成前に、金融緩和から脱却すべきだ 2017年5月15日 日銀は、2%インフレ目標が達成される前に、金融緩和から脱却すべきだ。そうしないと、出口が閉ざされてしまう。その理由は次の通りだ。  仮に物価上昇率が2%になれば、インフレがさらに昂進することを防ぐために、短期金利を最低2%に引き上げる必要がある 。このためには、現在のマイナス金利を解除するだけでなく、超過準備に対して最低2%の付利をする必要がある。しかし、そうすると、日銀の利払い負担が急増し、日銀に巨額の損失をもたらす。  日銀納付金はゼロになるだろう。これは、国民負担だが、日銀が銀行に巨額の利子を支払うために生じるものだから、強い批判にさらされるだろう。  日銀が保有国債を売却して当座預金残高を減らせば、この負担を軽減することができる。しかし、これにも問題がある。なぜなら、短期金利が2%になれば、長期金利はそれより高い水準になるからだ。日銀が国債を保有し続ける限り、これは含み損に留まる。しかし、保有国債を売却すれば、含み損は現実化し、やはり巨額の損失が発生する。   異常な金融緩和からの出口を探るのは当然 2017年5月11日  日本銀行の黒田東彦総裁は、5月10日の衆議院財務金融委員会で、民進党の前原誠司氏の「出口のシミュレーションを出すべきだ」との質問に答えて、「金融政策運営の考え方を、日銀の財務面への影響も含めて説明することは重要だ」とし、「今後、検討していきたい」と述べた。日本維新の会の丸山穂高氏の質問にも、出口のシナリオについて「内部でも議論している」とし、「将来、紹介できるかもしれない」と述べた。  これまで記者会見などで「(出口の)議論は時期尚早」としてきたので、姿勢の転換だ。  日銀は、現在も年間約80兆円のペースで国債を買い上げている。しかし、それが実体経済を改善しているとはとても言えない状況だ。実質賃金は伸びず、消費も停滞を続けている。他方で、過剰買い上げに伴う国債市場のひずみの問題が顕在化している。5月始めには、1日半にわたって国債の値段がつかないという珍事も起きた。  ここで、2013年からの異次元金融緩和政策について、冷静に振り返ってみることが必要だ。  大きな誤解は、この政策によってマネーが大量に供給されたと考えられていることだ。実際には、そのようなことは起きていない。  大量の国債購入は、日銀の当座預金を異常なほどに増加させた。しかし、当座預金はマネタリーベースである。いわば、「マネーのモト」であって、マネーストックではない。  これが取り崩されて銀行の預金が増加するときに、初めてマネーストックが増加する。しかし、日本ではそのようなことは起きておらず、当座預金が増えただけだ。これは、しばしば「豚積み」と呼ばれる現象である。つまり、銀行のバランスシートでは、資産面で国債が減って当座預金が増えただけだ。日銀のバランスシートでは、資産面で国債が増え、負債で当座預金が増えただけだ。  マネーストックが増えていないのだから、そもそも経済に影響与えることは不可能である。こうなることは、あらかじめ分かっていた。それは2001年からの量的政策の結果を見れば明らかである(この点は、拙著『金融緩和で日本は破綻する』、ダイヤモンド社、2013年)で指摘した。  また、イングランド銀行のレポートも、中央銀行が銀行から国債を購入しても経済に影響与えることができないことを指摘している。マネーストックを増やすためには、非銀行部門から国債を購入しなければならい。このレポートについては、『週刊ダイヤモンド」の2016年11月26日号「異次元緩和の失敗は方法を間違えたから」で紹介した。  現在、原油価格が上昇し、輸入物価指数が上昇している。このため、消費者物価指数の上昇率は、今年の夏には1%程度にまで高まると思われる。しかし、これは日銀の金融政策の結果ではない。  弊害のみあって何の効果もない異次元金融政策からは、一刻も早く脱却すべきだ。 トランプ税制改革の恩恵は労働者に及ばない 2017年5月1日  4月26日に公表されたトランプ税制改革の目的は、アメリカの法人税率を下げ、かつ海外からの利益の還流に対する税率を1回限り下げることによって、海外に移転したアメリカ企業を呼び戻すことだ。  しかし、アメリカ企業の海外移転は、低い賃金やサプライチェーンの存在など、生産の実態的な側面によるところが多い。それに、アメリカが税率を下げても、他国がそれに対応してさらに税率を引き下げる可能性もある。そうなれば、海外の利益に課税しないという源泉地主義課税は、アメリカ企業の海外移転をかえって促進させてしまうことになる。だから、この税制改革によってアメリカの労働者の職が増えることはないだろう。  法人税率引き下げの効果は、株主や経営者に及ぶ。他方で、個人所得税の側面では、富裕者を優遇する改革が目立つ。トランプに投票した白人労働者たちは、この改革によって、再び裏切られることになるだろう。 経済最前線 2017年4月1日~4月30日は=>こちらです 経済最前線 2017年2月25日~2017年3月29日 は=>こちらです 経済最前線 2017年2月3日~2017年2月22日 は=>こちらです