経済最前線 2017年10月1日~
ビットコインの価格はバブルか?
2017/11/29
ビットコインの価格が100万円を突破した。
この1年間で10倍以上に上昇したことになる。このような価格上昇は今後も続くのだろうか?それともこれはバブルだろうか?
ビットコインの送金手数料が、銀行の口座振替手数料を超えた
ビットコインの価格水準が適切なものかどうかを考える1つの目安は、送金手数料である。
取引所を経由してビットコインを送金する場合、取引所は送金手数料を取る。その額は取引所で決めている。取引所によって若干の差があるが、ビットフライヤーの場合には0.0004 BTCだ。
ビットコインの価格が100万円を超えると、これは400円を超えることになる。
他方、銀行の口座振替手数料は、他行宛の場合、3万円未満で200円台、3万円以上で432円だ。
したがって、ビットコインの手数料のほうが高くなってしまう。
ビットコインは安い手数料での送金手段だといわれていたが、その利点は失われてしまったわけだ。
そもそもビットコインに利用価値があるのは、優れた送金手段であるからだ。しかし、その利点が失われてしまえば、ビットコインに利用価値はない。
それにもかかわらず価格が上昇するのは、値上がりだけを期待しての購入があるからだ。これはバブル以外の何物でもない。
手数料は引き下げられない
「それでは、取引所が手数料を下げればよいではないか」と考えられるかもしれない。しかし事態はそれほど簡単ではない。
それを理解するには、ビットコインの手数料の仕組みを理解する必要がある。
ビットコインを送金するには、マイナーに手数料を支払う必要がある。取引所は利用者から送金手数料を徴収し、それをビットコインのマイナーに送っている。
マイナーに支払う手数料は送金者が決めることになっているが、マイナーは手数料が高い送金要求を優先的に処理するので、低い手数料しか提示していない送金要求は処理が遅れる。
こうした事情があるので、手数料を下げることができない。
手数料をゼロにする技術開発が進む
では、ビットコインには将来がないのか?
そうではない。
送金手数料を引き下げるような技術開発が進んでいるからだ。これは「ライトニング・ネットワーク」というわれるサービスである。この詳細は、ダイヤモンド・オンラインで説明した。
これを用いると手数料をゼロに引き上げることが可能だ。
11月にその試験的なサービスが開始された。こうしたサービスが広く普及すれば、ビットコインの利用価値は高まる。
銀行の口座振替等、現在ある送金手段を代替し、将来の経済活動の中で極めて重要な役割を果たすことになるだろう。そうなれば、ビットコインの価値が高くなるのは当然のことだ。だから、価格上昇は正当化できることになる。
ビットコインの価格上昇がバブルかどうかは、今後の技術開発の見通しによるのだ。
ビットコインの分岐回避はグッドニュース
2017年11月 9日
11月17日に、ビットコインからSegwit2Xへの分岐が予定されていた。
日本時間の11月9日未明、この分岐が取りやめになるだろうと、ロイターなどが報じた。
香港の取引所Bitfinexが10月初めにSegwit2Xの先物を上場したのだが、そのサイトは、いま、Segwit2x suspended — LONG LIVE BITCOIN — という掲示を出している。
今回の分裂騒動は、今年の7月から8月にかけてのものとは、性質が違うものと考えていた。その理由は、「リプレイアタック」に対する防御が十分でないことだ。しかも、従来のビットコイン派とSegwit2X派が、お互いに自分たちが正当のビットコインでであると主張し、防御策は他の側が取るべきだと主張していたことだ。「ビットコインに11月再分裂の危機、前回より事態は深刻」(ダイヤモンドオンライン)
そうなると、取引に大きな混乱が発生する惧れがある。ビットコインは欠陥通貨になる惧れがあったのだ。「ビットコインに「欠陥商品」の恐れ、異常な値上がりは不健全だ」(ダイヤモンドオンライン)
私が最も恐れていたのは、そうした混乱が生じてビットコインの価格が大暴落し、ビットコインに対する信頼が失われてしまうことである。「分裂直前のビットコインは18世紀英国の「南海バブル」そっくりだ」(ダイヤモンドオンライン)
その影響は、ビットコインに限らず、仮想通貨一般に影響が及ぶだろう。それだけでなく、仮想通貨の基礎になっている技術であるブロックチェーンそのものも、疑いの目で見られる危険があった。そうなれば、新しい技術の開発が大幅に遅れてしまう危険がある。2014年のマウントゴックスの破綻によって、仮想通貨に対する疑いの考えが強まったことが繰り返される恐れがあった。
それが回避されたのは、グッドニュースと言うべきだ(ただし、現状は中断であり、将来再び分岐が計画される可能性は残っている)。
Segwitの導入によって、ビットコインの取引が高速化されると期待される。さらに、ライトニングネットワークなどが開発されれば、取引手数料の大幅な引き下げが可能になる。「ビットコインで少額高頻度取引を実現する切り札「ライトニングネットワーク」とは」(ダイヤモンドオンライン)
また、SatoshiPayやIOTAなどによるマイクロペイメントの取り組みもなされている。「仮想通貨によるさまざまな決済 SatoshiPayによるマイクロペイメント」(ダイヤモンドオンライン)
今度、そうした方向に向けてビットコインが改善され、決済・送金の手段としての利用が拡大していくことを望みたい。
発展目覚ましい中国のIT産業を支えるのは、質の高い大学教育
2017年10月31日
<清華大学が世界1で、東大は91位>
U.S. News & World Reportが作成するBest Global Universities for Computer Science(コンピュータサイエンスでの世界最優秀大学)によると、世界100位までに、中国の17の大学がランクインしている。このうち、清華大学は世界1だ。
この他に、シンガポールの2大学、香港の5大学が100位内に入るので、これらを合わせると、中国系で24大学ということになる。つまり、コンピュータサイエンスで世界のトップ100大学のうち、約4分の1は中国系なのだ。
それに対して、日本では、東京大学1校のみだ。しかも、第91位だ!
(なお、韓国は5大学が100位内に入る)。
10位までに絞ってみると、中国の3大学、シンガポールの2大学がランクインする。つまり、世界のトップ10の半分は中国系なのである。
そして、日本がゼロというわけだ。
「中国は日本より総人口が多いから、日本に比べて大学数が多くなるのは当たり前だ」と言われるかもしれない。しかし、上で見たように、(少なくともコンピュータサイエンスに関する限り)、質も日本よりは格段と高いと考えざるをえないのである。
清華大学(Tsinghua University)は、1911年に設立された「清華学堂」が前身で、1928年に「清華大学」に改称され、工業分野を中心に多くの人材を輩出してきた。歴史は古い大学だが、内戦と文化大革命の中で、過去との継続性は絶たれていたに違いない。文化大革命時代には、文革派の拠点の一つだった。
中国の大学は、過去のしがらみに囚われないために「リープフロッグ」によって発展した可能性が高い。
<一流のプロ集団が一流の仕事をしている>
中国でIT関連産業の発展が目覚ましいのは、上で見たような教育体制によって質の高いIT人材が生み出されていることの、当然の結果だと考えることができる。
暫く前、中国eコマーストップのアリババについて、「結党当時の中国共産党に似ている」と言われたことがある。その理由は、「二流のプロ集団が一流の仕事をしている」ことだとされた。
しかし、この評価は、いまや当てはまるまい。「アリババでは、一流のプロ集団が一流の仕事をしている」可能性が高いのだ。そうだとしたら、大変なことである。
中国がブロックチェーン開発で世界の先頭に立つ
2017年10月29日
ブロックチェーン開発に最も積極的に取り組んでいる国は、これまではアメリカだった。しかし、最近では中国に移りつつある。
中国政府は、2016年に策定した「第13次5カ年国家情報化計画」(計画期間:2016-20年)において、ブロックチェーンを優先プロジェクトとして指定した。
中国の調査会社「乌镇智库(Wuzhen Institute)」の「2017年中国ブロックチェーン産業発展白書(中国区块链产业发展白皮书)」は、興味あるデータを示している。
(この白書は中国語だが、「区块链」がブロックチェーンであることを知っていれば、読むことができる)。
それによると、ブロックチェーン関連企業の設立数は、2015年まではアメリカが世界1だったが、16年に中国がアメリカを抜き、世界一となった。
中国の金融機関は、ブロックチェーンをてこに、技術面の遅れを一気に挽回し、システムを一新しようとしている。
<中国は、ブロックチェーンでも「リープフロッグ」するのか?>
日本では、ブロックチェーン関連のスタートアップ企業の数も、海外に比べて圧倒的に少ない。
その最大の原因は、人材の不足だ。
日本のエンジニアは、ハードウエアの分野に偏っており、コンピュータサイエンスなどの先端分野の専門家が著しく不足している。
その原因は、日本の大学がいまだに伝統的な産業分野を中心としていることにある。工学部は、機械工学や材料工学などが中心だ。それに加え、国立大学では、農学部がいまだに大きな比重を占めている。これを改革しようとしても、学内で強い抵抗が生じるので、不可能だ。
中国における高等教育機関は1980年代以降整備されてきた。したがって、伝統的分野のしがらみから自由な構造になっていると思われる。
中国が情報分野などの新しい先端分野で強いのは、そうした部門の人材を大学が育成できる体制が出来ているからだろう。
一般に、後れて発展する社会や国家が、先進国が経験した段階を飛び越えて、一気に進展することを「リープフロッグ」という。「Frog(カエル)がLeap(跳躍)する」という意味だ。
古くは、蒸気機関中心の技術体系から抜け出せなかったイギリスを飛び越えて、ドイツやアメリカが電気中心の技術体系に移行したことがある。
中国は、電話において、固定電話の時代を飛び越えて、携帯電話の時代になった。
また、リテールの大手実店舗が発展する前に、Eコマースが発展した。
金融の分野でも、支店主義の銀行が発展していないので、電子マネーが急速に普及した。
ブロックチェーンにおいても、同じ現象が生じるのかもしれない。そして、その原因が「高等教育機関におけるリープフロッグ」であるとすれば、事態は深刻だ。
中国とドイツが未来的製造業に取り組み、日本が脱落する
2017年10月28日
中国やドイツの製造業が、IOT(モノのインターネット)の導入に見られるように、従来型のものから未来型のものに向けて変身しようとしている。
ところが、日本企業はこうした動向に関心を持っていない。日本の製造業が、世界の最先端から脱落していくことが懸念される。
<2020年には、米中独が先進的。日本が立ち後れる>
『情報通信白書』は、IOTの導入に関する国際比較を行っている。
IOTの導入率を見ると、「現在の導入率」は、アメリカが突出して高い。ドイツと中国は日本より高いが、あまり大きな差ではない。
ところが、「2020年に向けた導入意向」についてみると、アメリカ、中国、ドイツが8割程度と、ほぼ同じレベルで、世界の最先端になる。他方で、日本は、現在よりは高まるものの、40%程度で、やっと現在のアメリカの水準に追いつく程度だ。
「アメリカが突出 し、日中独は同じ程度」。これが現在の姿だが、近い将来に 、「米中独が先進的になり、日本がそれから立ち後れる」ということになる。
もちろん、IOTの導入率がすべてではない。しかし、重要な指標であることは間違いない。
中国では、IT分野には先進企業が現れているし、 フィンテックでもユニコーン企業が多数誕生している。
しかし、製造業は低賃金労働に依存してきた。 それがいま、IOTで変わろうとしているのだ。
ドイツの製造業も、伝統的モノ作りから脱却することができないでいた。ところが、いま、IOTとの関連で、製造業が情報技術と融合しようとしている。
スマートロックをブロックチェーンで運営するシステムを開発したSlock.itや、IoTに対応したチェーンを開発するITOAなど、注目すべきスタ―トアップ企業がドイツに誕生している。
<国のリードより企業の取り組みが重要>
ドイツや中国の変身は、国がリードしているからだろうか?
確かに、両国ともIOTを国家的なプロジェクトとして推進しようとしている。ドイツは、「Industrie 4.0」。そして、中国は「中国製造2025」だ。
これらの影響があることは否定できない。
しかし、それだけではない。
企業の取り組みも積極的なのである。これについても、「情報通信白書」が興味深いデータを示している (第2節第3章I)。
それによると、「IoTに係る標準化に自ら取り組んでいる、または今後取り組む予定であるスタンスの企業の割合」が、高い国とそうでない国に2分される。積極的なのは米中独であり、50~60%程度だ。それに対して日本は20%台と低い。
東芝、神戸製鋼、日産、スバル等々、日本の製造業大企業の体質劣化を示す不祥事が、いまつぎつぎに報道されている。これらが深刻な問題であることは間違いない。しかし、それらは、過去の問題だ。もっと深刻なのは、以上で述べたように、未来への取り組みにおいて、日本の製造業企業が後れつつあるということだ。
リップル事件は起きるべくして起きた
2017年10月20日
リップルトレードジャパンの代表者が逮捕された。
リップルは仮想通貨と言われるが、ビットコインなどとは仕組みが大分違う。
この事件は、起きるべくして起きたと言える。仮想通貨に対する理解の浅さと、規制のちぐはぐさが引き起こしたものだ。
<リップルのゲートウェイ、IOUとは何か?>
リップルトレードジャパンは、リップルのシステムの中で「ゲートウェイ」と呼ばれる存在だ。これはビットコインの場合の取引所に似たものだが、機能は違う。
ゲートウェイは、円などの現実通貨を受け入れて、IOUという借用書を発行する(リップルは、IOUを用いて送金を行なうのである)。
ビットコインなどの場合の取引所の役割は、本来は、現実通貨をビットコインなどに両替することだけだ(現実には、取引所の口座にビットコインを置いたままにしている人が多いが)。
しかしリップルのゲートウェイは、IOUという負債を発行している。
ビットコインは、取引所なしでも取引は進行する。しかし、リップルはゲートウェなしでは、大部分の送金は行われない。
ビットコインでは、ブロックチェーンという仕組みが、改ざん等を防止している。このため、P2Pに悪者が入ってきても壊れない堅固な仕組みになっている。性悪説を受け入れてても、なお成り立つ仕組みだ。
しかし、リップのIOUの価値を裏付けるものは、何もない。ゲートウェイ業者を信頼するしかない。これほど危ないものはない。これは、性善説に立った仕組みだ。
私は、『仮想通貨革命』(ダイヤモンド社、2014年)の中で、「リップルの成功は、信頼できるゲイトウェイが多数存在することに掛かっている」と述べた。
<投資家は、なぜIOUを持って満足していたのか?>
本稿の冒頭で、「リップル事件は起きるべくして起きた」と述べたのは、以上のような認識による。
私はまず第一に、被害にあった人がなぜゲートウェイに金を預けて、IOUを保有していたのかが不思議である。
これが危険な取引だとというのが上で述べたことだが、それ以前に、何を期待してそういう取り引きをしたのかが不思議だ。
リップルの内部で使用されるXRPという仮想通貨を、値上がり期待で買ったというなら、分からなくはない(値上がり期待で買うことは褒められたこととではないが、ここ1年間で100倍程度も値上がりしたのであれば、気を動かされても仕方ないかもしれない)。
しかし、IOUを持っていても、値上がりすることはない。送金に使うのでなければ、何の利用価値もない。
なぜ数百万円もの大金を預けて、そんな無駄な取引をしたのか、私には不思議でならない。
<なぜ性善説が必要なシステムを規制しないのか?>
もう一つの問題は、規制のちぐはぐさだ。
「世の中には悪い人もいるから規制する」という規制の論理は、分からなくはない。
その論理は、性善説を前提に成り立っている仕組みにこそ、適用すべきものである。仮想通貨であれば、リップルのゲートウェイをこそ規制すべきだ。
ところが、新聞報道によると、リップブルのゲートウェイは、規制の対象になっていない。その理由は、「現実通貨を仮想通貨に替えるという業務をやっていないからだ」という。しかし、IOUは見方によっては仮想通貨である(実際にインターネットで送金をするために使われている)。
性悪説を取ってもなおかつ機能するビットコインを規制しようとし、その半面で、性善説によらなくては成立しないリップル(ゲートウェイ)を規制しない。これは、誠に不思議な論理だ。
機能不全に陥っている日本の政治システムを救うには ―予測市場とブロックチェーンを用いる提案 2017.10.13 今回の総選挙ほど、経済政策をめぐる論争が不毛な選挙はない。どうしたら、改善できるか? <分析と評価を切り離す> 「政策がどのような結果をもたらすかという、分析ないしは予測」の問題と、「分析・予測された結果をどう評価するか」は、別の問題である。 前者は価値判断には影響されずに客観的にできる。立場による差は、あまり大きくない。それに対して、後者は、価値判断そのものだ。結論は立場により大きく異なる。 本来選挙で問うべきは、後者だ。そして、前者は、専門家が評価するのがよい。 ところが、現実には、この2つが区別されずに選挙で問われている。 問題は、「分析・予測」についての情報が不完全なことである。とくに経済政策については、予測・分析は、専門家によりなされる必要がある。 しかし、そうした情報が十分に供給されていないため、選挙における評価にバイアスが生じてしまう。あるいは、評価が、間違ったものとなってしまう。 そして、政治がポピュリズムに陥ってしまうのだ。 例えば、消費税の増税の問題。短期的なことだけを考えれば、税負担が増えない方が望ましいとは誰でも思う。 しかし、長期的な効果を考える必要がある。増税しなければ、将来、社会保障支出が削られるかもしれない。あるいは、負担がもっと増えるかもしれない。 このようなことを正確に予測するのは、普通の人には難しい。このため評価が短期的なものに偏ってしまうのだ。 あるいは、アベノミクスの評価。企業利益の増加や株価の上昇は報道されるが、人々の生活にどういう影響を与えているかは地味な情報なので、あまり大きくは報道されない。単純な数の計算をすれば、アベノミクスによって被害を受けている人の数の方が多いのだから、否決されるはずだが、現実にはそうならない。これについては、『ダイヤモンドオンライン』 に書いた。 <予測市場の仕組みを使う> 「予測・分析と評価を分離する」試みは、すでに行われている。オランダには、経済政策分析局(CPB: Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis))という政治的に独 立性の高い政府機関が あり、政党の政権公約の評価を行なっている。 各政党は、選挙前に、CPBに対して政策提言を提出し、CPBはそのコストや経済に与えるインパクトを分析するとともに、しばしば、政党の政策提言の矛盾点を指摘する。=> => しかし、日本では政府に中立性を期待できない。『経済財政白書』が、政府の政策擁護一辺倒になってしまっているのを見れば、それは明らかだ。 前記の予測・分析の部分を、予測市場を用いて行なうという提案は、なされている。それは、futarchy(フタルキイ)という仕組みだ(拙著、『ブロックチェーン革命』、日本経済新聞出版社、2017年。終章の3参照)。政治学者の間で議論になっている。 もっとも、予測市場の仕組みで機能するかどうかについて、疑問がある。例えば、評価基準を「10年後のGDP」とした場合には、結果が出るのが10年先になってしまうからだ。 ただ、「専門家の判断を集計する仕組みを作る」という意味で、興味深い。 そこで、例えば、つぎのような仕組みが考えられる。 報道機関や非営利法人が、仕組みを作る。多数の専門家の参加を求める。評価の基準としては、GDP、賃金、消費支出、企業利益、株価、格差などを取る。 そして、各党の政策をこれらの指標で評価する。例えば、「消費税率を10%に引き上げる」「原発をゼロにする」「公的年金支給開始を70歳にする」等々。 単純集計でもよいのだが、参加者にインセンティブを与えるため、予測市場的な仕組みを導入することが考えられる。そして、全体の平均に最も近い結果を出した人に報酬を与える。 今回の総選挙では間に合わないが、こうした仕組みをどこかが立ち上げてくれることを期待したい。
超整理法は数学的に最適な方法
2017.10.9
最近翻訳書が刊行されるブライアン・クリスチャン 、 トム・グリフィス(田沢 恭子訳) 『アルゴリズム思考術: 問題解決の最強ツール』(早川書房、2017年)の中で、超整理法が数学的に正しい方法であることが述べられている。 「超整理法」(押し出しファイリング)とは、「資料を封筒に入れ、新しく作った封筒は左端に入れる。使った封筒は、もとの位置に戻すのではなく、左端に入れる」という方法だが、これは、「コンピュータサイエンスにおける『LRU』( Least Recently Used:最長時間未使用の原理)を発展させたものだ」と前掲書の著者たちは評価する。 また、超整理法は、「使ったファイルは、元の場所に戻すのでなく、1番左に戻すべきだ」とした。これは、Move-to-Front (MTF)法 と呼ばれる。 ダニエル・スリ―ターとロバート・タージャンは、これが「コンピュータサイエンスにおける自己組織化リスト」(Self-organizing list)として最適のものであることを証明した。 超整理法が従来の方法より優れていると私は考えていたが、単に効率的であるだけでなく、最適であると評価されたことは、大変嬉しい。 なお、『アルゴリズム思考術』には、これ以外にも大変興味深い内容が沢山ある。 身の周りの諸事をアルゴリズム思考で見直せば、我々の生活は改善されるだろう。
総選挙で選択権を行使できないことに不満を持つ人は多い
2017.10.3
社会保障財源を考える際に重要なのは、「消費税率を3%に引き上げだけでは決して十分でない」ということだ。消費税だけで対処しようとすれば、税率を30%程度に引き上げる必要があるだろう。 しかし、現実には、10%への引き上げもままならぬ状態だ。 安倍晋三首相は、リーマンショックのような重大な事態が起きた場合には、引き上げないこともありうるとの含みを残している。希望の党は、消費税凍結を表明している。共産党も、消費税増税には反対だ。 「痛みを伴う給付削減や負担の増加は、正面から政治的な課題としない」というのは、いまに始まったことではないが、今回ほどそのことが明確に現れている選挙はない。 <人々は選択肢を示してほしいと望んでいる> ところが、これに関して、人々の意識は変化している。 「痛みを伴わない施策は維持できない」という認識は、一般的なものになっている。 新しい政策だけではない。現在の社会保障制度自体の継続可能性について、大きな不安を持つ人が多い。 現役世代は、年金支給開始年齢が70歳に引き上げられることはありうると考えている。他方で、現在の職場で70歳まで就労を続けるのは難しい、とも考えている。 高齢者は、十分な医療や介護のサービスを将来受けられるかどうかについて、不安を抱いている。 だから、現在の仕組みを維持するだけのためにも、負担の構造をはっきりさせてもらいたいと考える人が多くなっている。「今の仕組みには無駄が多いから、それを見直せば財源は出てくる」、あるいは、「財政再建を延期したところで問題は起こらない」というようなごまかしは、通用しなくなってきている。もはや、無責任体制は許されない時代になってきているのだ。 それにもかかわらず、日本の政治は、その要求に応えていない。 今回の総選挙で、社会保障財源に関する選択権を行使できないことに不満を持つ人は多い。
国民は社会保障財源問題に関する選択権を、総選挙で行使できない
2017.10.2
増大する社会保障費の財源をどうするかは、国民の誰もが強い関心を持つ極めて重要な政策課題だ。今回の総選挙において、それに関する選択肢が政治の側から提出されているだろうか? 形式的にいうと、安倍晋三首相の提案では、子育て支援や教育無償化の施策を導入し、その財源は消費税の増税による増収分ということになっている。 しかし、消費税の増税そのものは既に決められていることだから、今回新たに提案されたのは、「財政再建を延期して新しい政策に充てる」ということだ。 民進党の前原誠司氏は、民進党の代表選にあたり、消費税を増税して社会保障に充てるとする「All for All」を発表した。これも社会保障を全世代型に拡張することであり、その財源は消費税だ。ただし、消費税凍結を表明する希望の党への合流で、それは雲散霧消した。 共産党も、社会保障には反対ではないがその財源は抽象的だ。 結局、どの政党が勝っても、財政赤字の拡大によって社会保障費の増大を賄うことになる。 ところが、財政赤字への依存は、持続可能性がない。この場合に実際に起こるのは、高齢者の自己負担の増加や給付切り下げだ。 医療保険については自己負担の増加が考えられているし、年金については、支給開始年齢の引上げが報じられている。 こうして、現実には、「取れるところから取る」、「削れるところから削る」ということになってしまう。政策全体の整合性が取れず、公平性が阻害される。選挙で基本方針が決定されないから、実際の政策がこのように捻じ曲げられてしまうのである。 総選挙は国民が政策に関して意思を表明できる大変貴重な機会であるにもかかわらず、適切な選択肢が政治の側から示されていない。国民は社会保障とその財源問題に関して、選択権を行使できない状態になっているのだ。
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