将来の支払い手段の主役は、仮想通貨でなく電子マネーか?
2018/02/28
3メガバンクが、電子マネーのQRコードの規格統一化を図るという報道があった。
この動きはぜひ進めるべきだ。
この数年間、ビットコインの広がりによって、マイクロペイメント(ごく少額の送金を安いコストで行なうこと)が可能になるのではないかという期待があったが、ビットコインの価格が投機によって上昇してしまったために、送金コストが高くなり、仮想通貨は送金・決済の手段としては魅力のないものになってしまった。
この状況は、ライトニングネットワークなど新しい技術で解決できるものではあるが、すぐに利用できるものではない。メガバンクで上のような状況が進めば、様々な支払いに使うことができるだろう。例えばウェブでのコンテンツの有料配信が可能になるだろう。
これまでの日本の仮想通貨は、コンビニの支払いなど特定の店舗でしか使えないものが多かった。中国でアリペイやウイーチャットの利用者が10億人を超えているのに比べると、日本はキャッシュレス経済への移行の面で大きく遅れている。
この状況が変わることを期待したい。
世界株安は、金融緩和終了後の正常なトレンドへの復帰
2018.2.7
世界的に株価が下落している。問題は、これが一時的なものか、それとも構造的なものかである。後者である可能性が強い。
2014年10月末にアメリカの金融緩和が終了し、それ以降、株価は全世界的に下落を続けてきた。
これは、リーマンショック以降の金融緩和の終了に伴う正常な過程だ。原油価格が下落し、新興国から資金がアメリカに還流した。
しかし、16年11月に米大統領選でトランプ氏の勝利が決まり、積極的財政政策を実施するとしたことから、状況が一変し、株価は上昇に転じた。
これは非常に急激な変化であり、人々の期待がこの時点で大きく変化したことの結果と考えることができる。
トランプ大統領のマクロ経済政策は、減税と財政拡大策が中心である。それは、マクロ経済を拡張させる効果が期待されるとともに、長期金利の上昇をもたらす。後者の効果が大きければ、経済に抑圧的な影響を与える可能性もある。これまでの1年間は、前者の効果が大きいと考えられて株価が上昇してきたのだが、その見通しがここにきて変わったと考えることができる。
そうだとすれば、16年11月からの状況がむしろ1時的なものだったのであり、いま、14年秋からの長期的なトレンドに戻りつつあると考えることができる。
これは、日本企業の業績にも大きな影響を与えるだろう。
「平均値からの脱却」が作る世界
2018.2.3
データ処理能力の向上により、「平均値からの脱却」が可能になる。
それは、さまざまな面で社会を大きく変えるだろう。
<新しい損害保険>
いま、フィンテックの分野で新しい保険が登場し、注目を集めている。
自動車保険で、自動車にセンサーを積んで運転状況を詳細にモニターする。その結果を反映させて、リアルタイムに保険料が変わる。
これによって、優良運転手の保険料は安くなり、悪徳運転手の保険料は高くなる。
だから、人々は注意して運転するようになる。保険事業の収益も向上する。
これまでの保険では、統計的な手法により保険の条件を設定していた。大雑把に言えば、「平均値の世界」だったのだ。
ところが、データ処理技術の進歩によって、個々の対象が識別できるようになった。それによって保険業が変化しているのだ。
従来の保険で何が問題だったか?
一つは「モラルハザード」だ。
これまでの自動車保険では、対象者の過去の事故履歴などを参照するが、その程度のデータしか反映されていない。
そこで、悪徳運転手は、「事故を起こしても保険でカバーしてくれる」と考え、乱暴運転をする。その結果、保険の支払いが多くなり、保険事業の採算が悪化する。こうして、悪くすれば保険が適用できないような事態になってしまう。つまり、市場が成立しない事態になるわけだ。
これは、ノーベル経済学賞の受賞者ジョージ・アカロフが、「レモンの市場」と呼んだものである。
この状態が、上記のように個別の運転者を判別する新しい自動車保険によって、改善されることになる。
これまで「平均と言うベール」に隠されていたものが、明らかになるのだ。その結果、モラルハザードがなくなる。また、優良運転手は、ますます安全運転を心がけるようになる。また、レモンの市場が改善される。保険会社の採算は改善する。
同じようなことが他の保険でも生じる。
とくに重要なのは、医療保険だ。食事、運動などの状態がモニターされる。血液検査がモニターされる。それらが健康保険の保険料に反映される。
その結果、人々は、もっと健康を心がけるようになる。また、医療費や医療保険の支払いが節約される。このような保険は、すでに中国の衆安保険によって提供されている。
医療の世界そのものにおいても、このような変化が生じてくるだろう。つまり、医療データの整備によって、医療の効率化が実現できるだろう。
あるいは、家を整備すると、火災保険料が安くなる。だから火災に強くなる。そこで火災保険の支払いが減り、事業採算が向上する。
消費者金融の分野でも、似たような変化が生じる。個人の信用履歴に応じた融資が可能になる。
<規制の必要がなくなる>
「平均値からの脱却」がもたらす第2の変化は、規制の必要がなくなることだ。
例えば、タクシーには免許制がとられている。
それは、悪徳業者や乱暴運転をする悪質運転手がいるからだ。
タクシー事業を自由にすると、暴利をむさぼる悪徳業者が出てくるかもしれない。あるいは、悪質な運転手がはびこるかもしれない。
そうした業者や運転手がいても、客には事前に分からない。その結果、提供されるサービスの質が低下し、レモンの市場がもたらされるだろう。だから、規制が必要というわけだ。
レモンの市場は、ある意味では悪い人が隠れる場所であった。そして規制を正当化する理由でもあった。
しかし、Uberによって個々の運転手を評価できるようになれば、それが必要なくなる。旅館業についても同じである。
平均値の影に隠れていた人が淘汰される。
だから、規制も必要なくなる。規制によって守られて効率性向上を怠っていた事業者が淘汰される。それが社会の効率性を高めるだろう。
レモンの市場とは、十分な情報が供給されていなかったから生じた問題である。そうした情報が供給されれば、市場の有利性が高まるのだ。
<検索連動広告>
「平均値からの脱却」は、すでに新しい産業を作っている。
個別データを識別することが可能になったために機能が向上し、収益が上がった最初の例は、検索連動広告だ。これまでは、例えば「若い女性ならこれが好み」という程度の区別しかできなかった。ところが、個人の履歴や性向に応じて広告を打てるようになった。従来の広告に比べて明らかに広告の効率が高い。GoogleやFacebookの広告は、このような技術に支えられている。
「レコメンデーション」もそうである。個人個人に合った欲求を掘り出すことができる。
このように平均値戦略から脱却することができた企業が成長している。問題は、このようなことができる金はごく少数であるということだ。
<効率性の向上と格差の拡大>
「平均からの脱却」は、これからの社会に大きな変化をもたらしていくだろう。
上記のような変化は、もちろん良いことだ。
国と国との競争でも、そのような政策をとる国が成長する。
ただし、優勝劣敗の世界になり、格差が拡大する。
努力しない人が振り落とされるのは当然として、偶然によって条件が悪い人も振り落とされるのは、正当化できるか?
教育にも影響が呼ぶだろうか?知能指数に応じて教育が行われる。これは正当化できるか?
<統計学は不要な学問になる>
人間の認知能力は限界があって、多くの数をそのまま理解することはできないので、そのデータの性質をいくつかの単純な数(平均値、分散等)に要約する。
あるいは仮説の検証行なう。あるいは回帰分析をする。
従来の保険では、対象集団を1つのまとまりとして捉え、平均値、分散などの統計量を算出して、それに応じて均一の保険料を設定していた。
ところが、個人の詳細データを識別できるようになると、そうしたことは必要なくなり、個々人についての個別の保険料になる。
もちろん、この場合においても、その人の行動を予測するには一般の人と比較が必要になるので、統計的な手法が全く不要になるわけではなかろう。しかし、従来に比べて統計的な扱いが大きく変わることは間違いない。
コンピューターはデータをデータをそのものとして扱うことができる。ディープランニングという手法が、実際にそれを行っている。コンピューターがビックデータからどのように学習しているのかを人間が知ることはできないが、とにかく学習をし、能力を高めている。
ディープラーニングとビックデータの時代においては、統計学は必要なくなるのではないか?
少なくとも、平均値に依存することがなくなれば、統計学の必要性は著しく低下する。
ディープラーニングのアプローチの強みは、必ずしも数値化を必要としない点だ。
統計的な処理においては、データを数値で表わす必要がある。しかし、数値で表せないデータもあり、それらは、統計学で扱うことができない。
しかし、ビックデータの中には数値で表されないデータ(例えば図形)も含まれている。
<学問の手法にも影響する?>
学問の手法にも影響するかもしれない。例えば、「ソーシャル物理学」というアプローチが提唱されている。スマートフォンを用いて収集したビックデータを用いて、知見を得る。理論によって導くのとはずいぶん違う方法だ。
<AIとブロックチェーンが作る世界>
blockchainによって確実な記録がなされる。
AIによって、大量のデータを処理する。
量子コンピュータによってさらに進歩するかもしれない。
仮想通貨流出事故は、「起きるべくして起きた初歩的な事故」
2018.1.27
仮想通貨取引所の「コインチェック」から、ハッキングで約580億円の資金が流出した。これについて3点指摘したい。
1.この事故は、ブロックチェーンを用いた仮想通貨の取引システムそのものでなく、そのシステムを利用する取引所で起こったことだ。
いわば「システムの外」で起きた事故であり、仮想通貨の管理システムがハッキングされたわけではない。
2.報道によると、コインチェックは、インターネットに接続した状態で仮想通貨を保管していた。
これは、信じられないようなずさんな管理だ。今回の事故は、「起きるべくして起きた初歩的な事故」と言わざるをえない。
3.被害にあった仮想通貨は、取引所に預けたままにされていた。この状態では、仮想通貨は取引所が保有していることになり、そのセキュリティは、取引所のセキュリティに完全に依存する。
本来、仮想通貨は、秘密鍵を自分で管理すべきものだ。それでハッキングが完全に防げるわけではないが、取引所よりは狙われにくいだろう。したがって、今回の事故のようなことにはならなかったはずだ。
2014年のマウントゴックスの場合も、ビットコインが取引所に預けられたままになっていたために被害にあった。その時の教訓がまったく活かされていない。
フリーランス普及のための税制改革を
2018.1.28
新しい働き方であるフリーランスは、組織間の人材の流動化、技術開発の促進などの観点から、望ましい方向だ。その普及を、働き方改革の重要な課題とすべきだ。
ところで、税制は働き方に大きな影響を与える。フリーランスとの関係で、2点指摘したい。
第1は、給与所得控除の問題だ。
現在の給与所得控除は、経費の概算控除としては大きすぎるので、給与取得の形態で所得を得ることが、雑所得などの形態に比べて、有利になっている。
しかし、フリーランサーの所得の多くは給与所得の形態を取らないので、給与所得控除の存在がフリーランシングの普及を妨げるおそれがある。
来年度税制改革で給与所得控除が圧縮されることとされているが、右の問題を緩和するものであり、望ましい方向と評価される。さらに圧縮する必要がある。
ただし、これだけでは不十分だ。また、勤労所得の税負担は、軽減する必要がある。そのため、つぎの措置を取ることが望ましい。
(1)「勤労所得控除」を創設する。これは、経費の概算控除としての性質を持つ。現在の給与所得控除よりは小規模とする。給与所得の形態をとらない勤労所得(雑所得や事業所得の一部)にも適用する。
(2)累進税率を緩和する。
第2は、徴税の問題だ。
現在の日本の徴税体制は、源泉徴収に大きく依存している。フリーランサーであっても、事業所から所得を得る場合には、源泉徴収がなされている場合が多い。
しかし、ネット上の物品販売などで所得を得る場合には、源泉徴収がなく、完全に補足されているかどうか疑問だ。
このような徴税上の不均衡をなくす必要がある。
新しい働き方であるフリーランスの促進は、働き方改革の重要な課題だ。寛大すぎる給与所得控除の見直しは、この観点から望ましい。
ビットコインの規制強化は、
健全な発展のために望ましい
2018.1.20
ビットコインの規制強化論が急浮上している。フランスとドイツが、規制案をG20に提案する考えを表明した。
これは、望ましい動きだ。
なぜなら、ビットコインの価格急騰に伴い、その送金手数料は、去年の秋ごろ以降急騰して、銀行の口座振り込み手数料よりも高くなってしまったからだ。これでは、ビットコインは、投機の対象とする以外には何も利用価値がないという極めて異常な状況になる。これを考えれば、投機抑制のための措置が必要なのは明らかだ。
ただ問題は、何を目的として、どのような規制を行なうかである。
その目的は、ビットコインの取引そのもの抑えることであってはならない。これは新しい技術革新であることは間違いない。それに投機的な取引が集中していることが問題なのだ。そしてその中に誤った期待が多く含まれていることが問題なのだ。新しい技術の健全な発展のために環境を整備することこそ最も重要である。
そのために必要なのは、つぎのことだ。
1.正しい情報の提供。
とりわけICO(仮想通貨による資金調達)について、事業内容を正しく評価できる仕組みの設定。
2.証拠金取引の規制。
3.値上がり益に対する適切な課税。
経済最前線 2017年10月1日~11月29日はこちらです