「超」集中法

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     「超」集中法
― 成功するのは2割を制する人
(講談社現代新書、2015年9月)

(目次)
はじめに
第1章 2割に集中する人が成功する
第2章 2:8 法則を無視する人たち
第3章 「超」整理法は自動的にコアを見出す
第4章 試験勉強でこそ2:8法則が有効
第5章 変化するビジネスのコアをつかむ
第6章 世界は偏っている
第7章 8割の逆襲?ロングテールとブラック・スワン

コアに集中すれば能率を4倍にできる
 現代新書で『超集中法』で強調したのは、「さまざまなことに<コア>と呼びうるものがあるので、努力をそこに集中すべきだ」ということです。「コア」とは、「核」という意味です。
 全体の中でコアが占める比率は2割程度であることが多く、そして「コア」によって全体の成果の8割程度が生み出される場合が多いのです。
 例えば、自動車の部品でよく故障するのは、全体の部品の中で約2割のものであり、それらの故障が故障総数の約8割を占めると言われます。このことは、「2:8の法則」とか「パレートの法則」と呼ばれます。
 自動車の部品だけでなく、商品の売れ行き(2割の商品で、全体の売上の8割を占める)や顧客の動向(2割の顧客で、全体の売上の8割を占める)などについても、同様の傾向が観察されます。
 「何割で何割になるか」という数字は場合によって異なるのですが、文字通り「2割が8割」なら、コアに集中することで仕事の能率は4倍も向上します。これほど簡単な方法でこれほど顕著に能率を向上させることができるのは、ある意味では驚きです。
 
「コアの見つけ方」こそがノウハウ
  ところで、「2:8の法則」自体は、昔から知られていました。では、なぜいま2:8法則についての本が必要なのでしょうか?
 それは、これまで2:8の法則について述べた本は、つぎの2つの問題に対して答えを提供していないからです。
 (1)どうすればコアを見出すことができるのか?
 (2)コアが変化した時、どのように対応すればよいか?
 これら問題に対して解を与えようというのが、本書の目的です。
 この2点は、「2:8の法則」を現実の対象に応用しようとすれば、どうしても必要となることです。それを示さずに「「2:8の法則を使えば能率が上がる」と言っても、何の意味もありません。
 世の中にはこの類の「疑似ノウハウ」が溢れています。それは、「上手にやればうまくいく」と言っているのと同じことです。「ノウハウ書」が専門書より一段低いものと考えられているのは、こうした「疑似ノウハウ」が多いからではないでしょうか?
 昔からよく知られている「2:8の法則」を、あえていま取り上げたのは、この問題に解を与えたいからです。
 
書類や資料の「コア」はどこにあるか?
  日々の仕事で用いる書類や資料などの情報については、「最近使ったもの」がコアです。そうなるのは、人間はある仕事を一定の期間継続し、それに必要な書類や資料などを繰り返し参照するからです。こうしたものは、「ワーキングファイル」と呼ぶことができます。
 『「超」整理法―情報検索と発想の新システム』(中公新書)で提案した「押し出しファイリング」は、ワーキングファイル(=書類のコア)を見出すための具体的な方法です。書類を一定の手順で収納することにより、自動的にその目的を達成することができます。
 この方法を提案したのは、1993年のことでした。それ以降、IT(情報通信技術)の進展によって、情報処理の方法は大きく転換しました。「押し出しファイリング」は、紙の書類を対象としたものであるため、その重要性は表面的には確かに低下しました。
 しかし、「最近使ったものがコアである」という事実に変わりはありません。事実、PCなどのデータ保存は、この原則にしたがって設計されています。ユーザーとしても、その設計思想を積極的に使うことが必要です。
 
勉強の「コア」はどこにあるか?
 「2:8の法則」の応用において、 勉強は特別な位置を占めています。なぜなら、コアが誰にとっても同じであり、しかも安定している(あまり変化しない)からです。とくに、入学試験などでは、コアの内容が中心として出題されます。そうでない内容ばかり出題していれば、社会的な非難にさらされるでしょう。
 したがって、勉強(とくに試験のための勉強)は、2:8法則の効果が最大限に発揮できる分野なのです。
 できる学生とできない学生の差は、生まれつきの能力の差というよりは、勉強の方法の差によって生まれます。そして、勉強の方法の差とは、コアに当たる内容を重点的に勉強するか、それともあらゆる内容を平板に勉強するかの差です。できる学生は、「2:8の法則」という言葉を知らなくとも、自然とその原則にしたがった勉強をしているのです。
 ですから、「2:8の法則」を知り、それを積極的に活用すれば、どんな人でも勉強の成果を飛躍的に向上させることができます。本書の第4章では、勉強のコアを見出すための具体的な方法を述べています。
 
ビジネスの「コア」はどこにあるか?
 原理的に言えば、ビジネスに対しても「2:8の法則」は当てはまります。それは、まず日常的な仕事の進め方の能率に関係します。
 それだけでなく、会社全体としていかなる事業を行うべきかという「ビジネスモデル選択」において、重要な意味を持っていますす。コアを見出し、それに集中することが必要なのです。最近のアメリカの先端的な企業の特徴は、このような集中化を行なっていることです(iPhoneなどごく少数の製品に特化しているアップルがその典型例です)。
 しかし、ビジネスにおけるコアへの集中は、決して容易な課題ではありません。勉強とは違って、ビジネスのコアは変化するため、コアが何であるかを把握するのが容易でないからです。そして、コアは産業によっても事業分野によっても、あるいは国や地域によって、大きく異なります。勉強の場合のように、誰にとっても共通のコアというものはないのです。
 実際、ビジネスの歴史を見ると、コアを見誤ったり、コアが変化した時に対応できなかった例が数多く見られます。本書では、電話やインターネットなどの新しい情報通信技術が導入されたとき、多くの企業がコアを見誤った例を挙げました。
 この問題は、現在の日本において、大きな重要性を持っています。日本が「失われた20年」と言われる状態から脱却できないのは、新しい技術の登場や新興国の工業化などの大きな変化によってビジネスのコアが大きく変わったにもかかわらず、日本企業がそれに対応できていないからです。
 この状況を変えることが、現在の日本経済にとって最大の課題です。
 まず第1には、データの活用が必要です。最近では、IT機器の利用拡大などによって、企業が利用できるデータが飛躍的に拡大しています。これは「ビッグデータ」と呼ばれるもので、これを活用することによって、変化するビジネスのコアを捉えようとする努力が進められています。また、コンピュータによる自動学習機能が発達し、人工知能的な成果を期待できるようにもなっています。こうした面でのフロンティアは日々拡大していくでしょう。
 ただし、こうしたことだけによって、ビジネスのコア発見という難題が、すべてが解決できるわけではありません。企業経営者の判断は、ますます重要になっています。
 
ロングテールとブラック・スワン
 「2:8の法則が重要」という主張は、世の中の現象の分布に関する理解と深く関連しています。
  われわれは、無意識のうちに、さまざまな現象が一様分布や正規分布に従うと考えてしまうのですが、現実の世界はもっと「偏って」いるのです。
 このため、「パレートの法則」とか「ジップの法則」、あるいは「ランクサイズルール」といった法則が成立します。これは、経済学や社会学あるいは自然科学のさまざまな分野で観測されていることです。
 「2:8法則を意識せよ」という本書のアドバイスは、抽象的に言えば、「すべての現象が一様分布や正規分布に従うと考えてはいけない」「世界を支配しているのは<べき乗則>であると意識せよ」「世界観をそのように変えよ」ということです。
 ところで、「2:8法則はもう古い。いまやブラックスワンやロングテールの時代だ」との主張が見受けられるようになりました。
 しかし、2:8法則もロングテールもブラックスワンも、「べき乗則が支配的」という認識に立っており、その意味では共通の世界観を持っているのです。したがって、ブラックスワンやロングテールの議論は、2:8法則を否定するものではありません。むしろ、それを補強するものだということができます。
「取り落としがないように全てをカバー」という考えは間違っている
「コアに集中すれば、能率は4倍になる」と言いました。以下では、これをもう少し掘り下げて考えたいと思います。ここでのテーマは、「取り落としがないように全てをカバーする」という考えが正しいかどうかです。

「コアに対応せよ」というアドバイスは、一見すると当たり前のことのような気がします。しかし、実はそうではありません。
例えば、故障に関してコアと考えられる部品に対応したとします。2:8法則が成り立っていれば、これによって8割のケースに対応することができます。しかし、これは完全な対処ではありません。コア以外の部品が故障することもあり得るからです。その場合には、対処できないことになります。
あるいは、試験の準備で、コアと考えられる内容について勉強したとします。しかし、それ以外の問題が出題されることもあります。その場合には対応できません。
2:8法則は、確率的な内容を含んでいます。したがって、「そのアドバイスに従えばどんな場合にも完全に対処できる」というわけではないのです。
それを不安だと思う人もいるでしょう。そして、「取り落としがないように全てをカバーしなければならない」と考えるかもしれません。そうでないと、失敗したときに言い訳ができないからです。
しかし、「全ての可能性に対処する」というのは、実は見せかけの安心を与えてくれるだけなのです。
例えば、試験の準備を考えてみましょう。勉強できる時間が無限にあれば、あらゆる内容を取り落としのないように勉強することができるでしょう。しかし実際には、勉強できる時間には限りがあります。問題は、その有限の時間をどのように配分するかということなのです。時間に制約がある場合、すべての内容を取り落としのないようにカバーすれば、かえって悪い結果がもたらされることになります。
「コアに集中せよ」というアドバイスは、使うことができる資源の総量に限度がある場合において必要とされることなのです.

ロングテール戦略を導入できる条件
上で述べたことを逆に言えば、使える資源に限度がない場合には、集中する必要はなくなります。これが本書の第6章で議論される「ロングテール」のケースです。
商店が売れ筋商品に集中しようとするのは、在庫の保有にはコストがかかるからです。出版社が売れ筋の本に集中しようとするのも、印刷などにコストかかるからです。しかし、ネット販売や電子ブックによってこうしたコストがゼロに近くなってしまえば、集中する必要はなくなります。つまり、「8:2法則は古くなった」ということが言えます。
ただし、この場合には別の問題が発生することに注意が必要です。商品数が非常に多数になってしまうと、消費者が何を選んだらよいのか分からなくなってしまうからです。
したがって、個人が望む商品を探し出せるためのガイドが必要になります。これは、「レコメンデーション」と言われる仕組みです。ネット書店のアマゾンや、ネット動画配信のネットフリックスは、この仕組みを導入しています。このためにロングテール戦略がとれるのです。
結局、つぎのようなことになります。在庫のコストをゼロにできず、しかも多数の商品からのレコメンデーションも導入できない通常の商店では、ロングテール戦略はとれません。2:8法則に従うことが必要です。

言い訳優先人間と闘う
利用可能な資源や時間に制約がある通常の場合についてのアドバイスをもう一度繰り返せば、「全ての可能性に対処するのは、見せかけの安心を与えてくれるだけ。だから、コアに集中すべし」ということです。
試験の準備のように自分1人でやり方を変えられる場合には、是非このアドバイスに従ってやり方を変えてください。
しかし、会社のように組織として仕事をしている場合には、必ずしも個々の構成員が自分の思い通りに仕事をやり方を変えることはできません。そして、「見せかけの安心に過ぎない」ということを理解するのは、決して容易ではありません。このため、厄介な問題が起こります。
つまり、「いかにして会社の業績を向上させるか」ではなく、「問題が起きた場合にいかにして言い訳するか」を優先させる「言い訳優先人間」が増えてしまうのです。
本書の第2章で述べるように、成果が評価されるのではなく減点主義が支配的になっている場合に、このような「言い訳優先人間」が増殖する傾向があります。それは、組織の能率を著しく低下させる病です。
日本の大企業ではことにこの傾向が強く、条件が変化してもそれまでの事業を惰性的に続けていくことになりがちです。これを変えることは、日本にとって重要な課題です。この問題に対処するには、大局を把握できるリーダーが必要です。

エクセルで図を書きまくり、名人の技を盗みまくる
ビッグデータや人工知能を用いてビジネスのコアを見いだすのが可能になりつつあると言いました。ただし、これは、企業全体としてのビジネスモデルを見出したい場合に、組織が全体として取り組むべき課題です。
それは、一人一人が日常の仕事において使えるものではありません。では、組織の中の人々が、仕事についてのコアを見出したい場合には、どうしたらよいでしょうか?本書は第4章で、つぎの2つを提案しています。
第1は、データの分析です。「分析」と言うといかにも高尚で基礎知識が必要なような気がしますが、そうではありません。Excelを用いてデータを図示してみるだけでも、かなりのことが分かります。
商品別あるいは営業部員別にどのような成績を収めているかを分析することなどが、簡単にできます。その結果、コアの商品やコアの部員を見つけ出すことができるでしょう。
これは特別の統計的な手法や特別の分析モデルなどを必要としない極めて簡単な方法です。ITの進歩によって、データの分析作業は一昔前に比べると極めて簡単になりました。回帰分析などの統計的な手段に頼る必要は必ずしもありません。学術的な論文を書くのであれば理論的に厳密な方法をとる必要がありますが、仕事の能率を向上させようというのであれば、必ずしも理論的厳密さにこだわる必要はありません。
第2の方法は、コアを見つけ出すのが上手い人を真似ることです。会社の中には、ヒット商品や企画を連発したり、どの地域を担当しても必ず一定の成績を上げる人がいます。こうした人々は、コアを見抜く「嗅覚」や「眼力」を持っているのでしょう。
できればそうした人に直接に教えを乞うのがいいのですが、彼れらは忙しく、暇はないのが普通でしょう。
それなら、その人のやり方を見て、方法を盗めばいいのです。昔から、名人の技というのは、弟子入りをして盗むものでした。現代の世界では、弟子入りする必要はありません。会社の日常の仕事を通じて、それと同じことができるからです。

黄金のハクチョウを見出せるか?
起こる確率は非常に低いけれども、いちど起こると重大な結果をもたらすものがあります。例えば、原子力発電所ですべての電源を喪失するような事態は、発生確率が非常に低いものです。しかし、いったん起これば、重大な事故が生じます。こうした事故は、「ファットテール」とか「テールリスク」と呼ばれます。あるいは、「ブラックスワン」と呼ばれることもあります。
まれにしか起こらなくても、被害が甚大である場合には、決して無視してよいわけではありません。生じた場合の被害を考慮すれば、それらを重視して扱う必要があります。つまり、「テール」という言葉はミスリーディングであり、「シビアアクシデント」と呼ぶべきものです。確率の小ささに惑わされることなく、その影響の大きさを考慮する必要があるのです。
ところで、ブラックスワンの議論では、通常はマイナスの効果をもたらすものが取り上げられることが多いのですが、プラスの結果をもたらすものもあります。例えば、新しい技術の中にはそうしたものがあるでしょう。それらは、「黄金の白鳥」と呼ぶことができます。
では、どうしたら「黄金の白鳥」を発見することができるでしょうか?この問題は、本書では十分に扱っていません。それについて論じるのは、将来の課題だと考えています。

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