カリフォルニア

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カリフォルニア映画街道

ボデガベイと「鳥」
アメリカ西海岸、シアトルからサンディエゴまでは、世界でもっとも楽しいドライブルートの一つだ(ただし、一回のドライブで走り抜けるのは、不可能である。私自身、何十年間に、何回にも分けて走った。なお、もう一つの魅力的なドライブコースは、スコットランド・ハイランズの西海岸である)。

ここはまた、「映画街道」でもある。
オレゴン州からレッドウッドの森を抜けてカリフォルニアに入ると、空気も明るくなるような気がする。
途中でインターステイト(州際高速道路)101から離れて、海岸添いのルート1(カリフォルニア州道1号線)を走ると、ボデガ・ベイという町に出る。ここは、ヒッチコック監督の映画「鳥」の舞台だ。

実際の町は、映画に出てくる不気味なボデガ・ベイとはだいぶ違う。瀟洒なシーフード・レストランなどがある明るい感じのリゾート地だ。
映画の時以来、観光客が増えて変わってしまったのだろうかとレストランのウエイトレスに尋ねたら、「映画の町は、海沿いの町ボデガ・ベイと内陸の町ボデガをつなぎ合わせて作った架空の町だ」という答えが返ってきた。不気味な感じを出すには、実際のボデガ・ベイの明るい雰囲気では都合が悪かったのだろう。映画でガソリンスタンドが火事になるシーンがあるが、このスタンドは内陸の町にある。
ティッピ・ヘドレン扮する主人公の女性は、サンフランシスコから鳥かごをもってボデガ・ベイまでルート1をドライブするのだが、途中の風景がスコットランドの牧場のような感じで、印象的だ。

ただ、この道は曲がりくねっているうえに山越えをしなければならず、時間がかかる。そこで、旅を急いでいるときには、内陸に入って再び101に向かう。
その途中に、ソノマ郡、セバストーポリという町がある。何の変哲もない小さな町だが、セバストーポリといえば、ロシア黒海艦隊の基地と海軍兵学校がある有名な軍港都市だ(先般のロシア、ウクライナ紛争でも帰属が問題になった)。多分、ロシア革命のときに、そこの住民が移住してきて作った町なのだろう。漫画『ピーナッツ』の舞台も、ここだ。


「天使にラブソングを」と「プリティ・プリンセス」

サンフランシスコを舞台にした映画は数多くある。
「天使にラブソングを」の舞台になったカソリックの修道院は、サンフランシスコの下町にある。修道院長役はマギー・スミス。彼女は「ハリー・ポッターシリーズ」でのマクゴナガル先生でもある。「天使にラブソングを」の時にはすでに60歳近かったが、若かった時の美貌を残していた。
映画の最後でドタバタ劇になるリノは、サンフランシスコからずっと内陸に入ったところにある。
「天使にラブソングを」は2011年にミュージカルになり、いまでもニューヨーク、ブロードウェイで上演されている。
この映画の最後で歌われる曲I Will Follow Himは、1962年のリトル・ペギー・マーチのヒット。彼女はこのとき14歳だった。Youtubeで検索すれば、デビュー当時の映像が見られる。

『プリティ・プリンセス』(原題: The Princess Diaries)は、サンフランシスコの冴えない女子高校生ミアが、実はヨーロッパの小さな王国ジェノヴィアの唯一の王位継承者であった、という話だ。アン・ハサウェイの最初の映画出演作である。
この映画の最後のほうで、ゴールデンゲイト・ブリッジが見える海岸でパーティが開かれるシーンがある。そこでStupid Cupid を歌っているのがマンディ・ムーア。元祖コニー・フランシスを超えているし、この映画の中でもアン・ハサウェイをも圧倒していると、私は思う。

「エデンの東」
101でサンフランシスコを通り抜けると、サンフランシスコ国際空港を経て、スタンフォード大学があるパロアルトに出る。このあたりは、「シリコンバレー」というほうがわかりやすい(「バレー」と言っても、渓谷があるわけではなく、遠くに山が見えるだけだ)。
この付近の101沿いの景色は、あまりよくない。サンフランシスコ半島の真ん中を走るルート280という高速道路が新しくできているので、そちらを走るほうがずっと気持ちがよい。この道路は、「世界で最も美しい高速道路」と呼ばれる。スタンフォード大学の近くにくると、確かに「スタンフォード大学」という道路標識はあるのだが、あたりを見渡しても大学の建物らしきものはなにも見えない。丘陵地に牛がのんびりと草を食べているだけだ(スタンフォード大学の敷地は山手線の内側の半分くらいの広さがあるので、道路からは見えないのである)。

半島の裏側、つまり太平洋岸のルート1のドライブも、時間はかかるが、素晴らしい。
2時間くらいドライブすると、カリフォルニアのかつての州都モントレイに出る。このあたりは、スタインベックの小説の舞台だ。ジェームス・ディーン主演で映画化された「エデンの東」も、ここを舞台にしている。
映画に出てきたモントレイとサリーナスを結んでいた鉄道は、いまはもうない。
アブラ役を演じる舞台俳優 ジュリー・ハリスの何と魅力的なこと! 主人公キャルの父親アダムが病に倒れたとき、ベッドに横たわるアダムに必死に語りかける場面は、感動的なシーンだ。
一番有名なシーンは、観覧車の場面。エイブラはキャルの兄アロンの恋人なのだが、空高く上った観覧車の中でキャルとキスしてしまう。恋人同士のキスなら誰でも演じられるが、恋人の弟とのキスは難しい。よほどのプロでないとできない。この場面でのハリスの話しぶり、微妙な手の動き、キスしてしまった後の当惑。どれをとっても完璧な出来栄えだ。映画史に残るシーンと言えよう(だが、不思議なことに、彼女は、これらの演技でオスカーを取っていない)。なお、この場面は原作にはない。エリア・カザン監督の創作なのだろう。私がこの映画を始めて見たのは高校生の時だが、その時はハリスの魅力を理解できなかった。「なぜこんな田舎娘が出てくるのだろう」と思った。映画鑑賞眼も、歳をとれば成長するものだ。

モントレイのすぐ南に、海岸にそった美しい別荘地を縫って走る17マイル・ドライブという道がある。そこを通り抜けると、おとぎ話にあるような小さな町に出る。これは、カーメル・バイ・ザ・シーというアメリカのハネムーンスポットだ。俳優のクリント・イーストウッドが町長をしていたこともある。

このあたりをずっと内陸に入ると、映画「アメリカン・グラフティ」の舞台となった町モデストがある(ここは、ジョージ・ルーカスの生まれ故郷)。

「明日に向かって撃て」の主人公、西部開拓時代の列車強盗ブッチ・キャシデイとサンダンス・キッドが荒らしまわったのも、このあたりの内陸である。ただし、これは「西部劇」という別の範疇で取り上げるほうがよいだろう。

「市民ケーン」と「卒業」
南に向かってルート1を暫く走ると、サンシメオン・ビーチという広々した海岸に出る。ここには、新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト(1863~1951年)が作った「ハースト・キャッスル」がある。ヨーロッパの古城を模して山の頂に築いた城だ。ギリシャ神殿のようなネプチューン・プールがある。城までのアプローチは、放し飼いの動物園になっている(城まで行くには、車を駐車場において、バスに乗り換える。このため、入場者数が制限される。確実に入場するためには、あらかじめ電話で予約をとっておくほうがよい)。
ハーストは、この城の中に個人用映画館を作った。いまでは誰でもホームシアターを持つことができるが、この当時個人用映画館を持てた人は、ハースト以外ではヒットラーとゲーリングくらいしかいなかった。われわれは、いま映画鑑賞に関して、ハースト、ヒットラー並みの生活を享受しているのである。
オーソン・ウエルズは、ハーストをモデルにして、映画「市民ケーン」を作った(1941年制作)。
私の頭の中では、ハーストとケーンが渾然一体となってしまっている。というより、この城に住んでいたのは、ハーストではなく、実はウエルズが扮するチャールズ・フォスター・ケーンであったのではないかと思えてくる。それほど、この映画は印象的だった。

暖炉に投げ込まれた橇が炎につつまれる最後のシーンは、これまで作られたすべての映画の中で、最も印象的な場面だ。ウエルズ自身が、生涯を通じて、25歳のときに作ったこの映画を超えることができなかった。
専門の映画評論家は、この映画を「大衆受けを狙ったもの」などと批判することが多い。しかし、それはひねくれた見方である。「市民ケーン」が映画史上最高傑作の一つであることは、間違いない。

ここからサンタバーバラを経由して、約四時間でロサンゼルスに出る。映画「卒業」には、ダスティン・ホフマン扮する主人公が、バークレイ(サンフランシスコの対岸の町。カリフォルニア大学バークレイ校の所在地)とロサンゼルスの間をスポーツカーで飛ばしてゆく場面がある(走っているのは、101でなく、ルート1)。なお、映画の中でバークレイのキャンパスとして出てくるのは、実際にはロサンゼルスにある南カリフォルニア大学だ。
サンタバーバラは、この映画の最後で、結婚式から花嫁を略奪する教会のある町だ。

だだっ広いロサンゼルス
ロサンゼルスはハリウッドの隣町(実質的にはロサンゼルスの一部だが、行政的に隣町)。だから、そこを舞台とした映画は山ほどある。
「プリティウーマン」で、装いを正したビビアンが、ベヴァリーウィルシャ・ホテルのレストランでエドと待ち合わせる場面は印象的だ。
エドは大金持ちなので、サンフランシスコのオペラ観劇に自家用ジェットで飛ぶ。
この映画が制作されたのは1990年だが、その直前まで、ジャパニーズ・ビジネスマンが世界を闊歩していた。実業家エドが取引しているのは、東京マーケットだ。また、パ-ティーにもジャパニーズ・ビジネスマンが顔を出している。いまこの役は、中国人がやるようになってしまった。

SF映画「ザ・コア」の最初で、スペースシャトルエンデバーがロサンゼルスリバーに緊急着陸する場面がある。「リバー」といっても、乾季には水がなくなり、コンクリートで舗装された高速道路のようになってしまうのである。見事な着陸を敢行するのは、ヒラリー・スワンク演じる宇宙飛行士。映画そのものは荒唐無稽なSFで「B級」としか言いようがないのだが、このシークエンスは素晴らしい。何度見ても飽きない。スワンクのボーイッシュな魅力が存分に発揮されている。
なお、車が走らない高速道路であるこの川は、「ターミネーター2」にも出てくる。
ジョージ・パルの映画「宇宙戦争」で火星人に攻撃されるのはロサンゼルス。「バトル・オブ・ロサンゼルス」でも、宇宙人の攻撃対象はロサンゼルスの隣町サンタモニカだ。

実は、ロサンゼルスという町はどこまでも広がる中心がないのっぺりした場所なので、映画の舞台としてはあまり適当でない。その点で、ニューヨークとはまったく違う。「チャーリーズエンジェル」というテレビドラマシリーズはロサンゼルスが舞台だが、このシリーズを全部みても、ロサンゼルスがどんな町なのか、イメージがつかめないだろう。

ビーチボーイズ
ロサンゼルスからは、再びルート1で海岸を走る。ビーチボーイズの「サーフィンUSA」という歌には、いくつものビーチの名前が出てくるが、それらはこのあたりにある。パシフィック・パリセード、マンハッタン・ビーチ、レドンド・ビーチ……。私は暫く前まで、この歌の歌詞がビーチ名の連呼であることに気づかなかった。

ビーチボーイズのDVDには、いくつかのものがある。ここでは、つぎの2つを挙げたい。

「ライヴ・アット・ネブワース 1980」は、イギリス、ネブワースのライブコンサート。

6人のメンバーが出演している最後のDVDだ。私が好きなのは、「スループ・ジョンB」。
何ともすっとぼけた歌詞が、素晴らしいハーモニーで歌われる。何度聞いても惹きいれられる。これは、かなり強度の中毒症状だと認めざるをえない。

「ロストコンサート64」は、行方不明になっていた64年のライブのテープが近年発見されてDVD化されたもの。デビュー直後で、5人のオリジナルメンバーが誰も若い。ネブワースのときにはかなり弱っていたブライアン・ウィルソンが若々しい魅力を発散させている。女の子たちが金切り声をあげるのも、無理はない。

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