べき乗則

Pocket

べき乗則、フラクタル、ブラックスワン、ロングテール

学校での統計学では、分布の代表的な形として「正規分布」を用いることが多い。確かに、さまざまな現象が正規分布で近似できる。例えば、あるクラスでの学生の身長や体重の分布など。
ただし、正規分布では近似できない現象も多い。マーク・ブキャナン(水谷 淳訳)、『 歴史は「べき乗則」で動く』(ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ 、2009年8月、882円)は、べき乗分布についての詳しい説明を行なっている。地震の規模の分布などがべき乗分布に従うことが知られている。

なお、べき乗分布は「パレート分布」とも呼ばれることもある(パレート分布の逆数の分布がべき乗分布)。

べき乗分布が持つ興味深い特性として「フラクタル性」がある。これは、一部分のみを取り出しても全体と同じ分布特性が見られるという興味深い現象だ。これは、IBMの研究員だったベノワ・B・マンデルブロによって見出されたものだ。彼は、綿花の価格変動を分析して、期間の取り方によらず同じような分布パタンが観測できることを見出したのである。その後、この法則はさまざまな自然現象で観測されることが分かった。
ベノワ・B・マンデルブロ、リチャード・L・ハドソン(高安 秀樹、 雨宮 絵理, 高安 美佐子, 冨永 義治, 山崎 和子訳)、『禁断の市場 フラクタルでみるリスクとリターン』、東洋経済新報社、 2008年6月、¥ 2,520)は、べき乗分布が持つこのような特性を説明している。

べき乗法則が支配する世界は、正規分布が支配する世界とは異なる様相を呈する。
ナシーム・ニコラス・タレブ (望月 衛訳)、『ブラックスワン 不確実性とリスクの本質 』(上、下)、ダイヤモンド社、2009年は、正規分布が支配する世界を「月並みの国」、べき乗分布が支配する国を「果ての国」と呼んでいる(第3章)。そして、現実の世界は、「果ての国」に近いとした。

「果ての国」では、滅多に現われないもの、または出現しないと考えられていたものが社会に大きな影響を与える。2001年に起きた9.11テロ、第1次世界大戦、ヒトラーの台頭、第2次世界大戦、ソ連の崩壊などがその例だ。彼は、これらを「ブラックスワン」と呼んでいる。このように、事前に予測できず、したがって対応しようのない事件が社会に大きな影響を与え、歴史を動かしていく。
タレブは、さまざまな現象を正規分布で近似することに対して強く反対している。その論理は第15章で説明されている。「ランダムウオーク」の結果が正規分布に従うことはよく知られているが、それは各試行が独立だからだ。しかし、現実には独立でないことが多い。その場合には、「マタイ効果」(富める者がさらに富むという効果)が働き、結果がべき乗分布になるというのだ。
確かにそのとおりであって、これまでの統計分析が正規分布を過剰に使っていたことは認めざるをえないだろう。しかし、現実の世界で正規分布で近似できるものが多いことも事実である。タレブの正規分布否定も過剰なのではないだろうか?それに、彼は「マタイ効果」のモデルは「ものすごく考えが甘い」と言っている(第14章)。なぜべき乗分布が一般的になるのか、という問題に対して、タレブは説得的な答えを提供しているとは思えない。
本書全体を通じて、サミュエルソンに代表される正統派経済学とマートン、ショールズに代表される正統派ファイナンス理論に対して執拗な批判が繰り返されている。

パレート分布は、急速に減衰した後に、なだらかに右側に続く曲線を描く。
クリス・アンダーソンは、『ロングテール―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』(早川書房、2006年)の中で、このグラフの右のほうを、恐竜の長い尻尾に見立てて、「ロングテール」と呼んだ。
そして、販売戦略においてこれまでは無視されることが多かったこの部分を適切に扱うことで収益が挙げられることを示した。それを実際に行なっているのが、ウエブ店舗のアマゾンだ。ただし、ロングテール部分を商品化するには、「レコメンデ―ション」などのシステムを準備することが必要だ。

カテゴリー: 未分類 パーマリンク